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100年前に描かれた“超ひきこもり男”の悲劇

『さかしま』ジョリス・カルル・ユイスマンス著

2009年12月8日(火)

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高級引きこもり、デ・ゼッサント

『さかしま』は、ジョリス・カルル・ユイスマンスが1884年に出版した、「デカダンスのバイブル」とも呼ばれる奇妙な小説だ。好きな人は猛烈に好きで、一番の愛読書に挙げる。しかし、嫌いな人はその記述にうんざりして、ページをめくる指も止まりがちだと言う。

主要な登場人物は、主人公のデ・ゼッサント、ただひとり。
彼は貴族の末裔。神経質で華奢な独身男。17歳で両親を亡くしたが、さいわい財産はある。
イエズス会の学校で神学やラテン語を学び、卒業後は、貴族から娼婦まで、いろいろな人々と広く深く交際して、遊び尽くし、体には病を心には嫌悪感を持つに至った。

貴族は退屈で、聖職者は偽善的。思想家はアホで、遊び仲間は空虚。女性への情熱さえも、ついには涸れ果てた。だいたい、どいつもこいつも無礼者だし俗物だ。私にとっては大切な思想や芸術を、内心、馬鹿にしていやがる!

デ・ゼッサントは結論を得た。
自分は、精神的な価値を求めている。
しかし世間では、精神的な価値など少しも大事にしない。価値基準は、金や世間の評判だけ。
自分は、そんな現代の生活が嫌いだ。そんな生活に馴染んでいる連中も大嫌いだ。

そして、決めた。
隠遁しよう。まず、交通の便が悪い土地(パリ郊外のフォントネエ)に一軒の家を用意する。もちろん内装にも調度品にも、自分の精神的な趣味を徹底させる。そして、世間とは縁を切って、ひとり静かに生活する。

こうして彼は、いわば「高級な引きこもり」になった。

 あたかも一人の隠者のように、彼は孤独の生活を送るのに丁度よい時期にきていたし、生活に疲れ、生活からもはや何物をも期待しない心境になっていた。また、あたかも一人の修道士のように、彼は無限の倦怠、瞑想の必要、もはや俗人どもと共通の何物をも持ちたくない欲求などに、執念く取り憑かれていた。彼にとって俗人とは、功利主義者と馬鹿者の別名にほかならなかった。

小説『さかしま』は、こうして始まったデ・ゼッサントの引きこもり生活の様子や趣味を、ひたすら紹介していく。

その趣味は神秘主義的である。少し悪魔主義的である。人間嫌いで自然嫌いで不健康で内閉的である。主人公は世間との関わりを断って、そんな趣味の世界に没頭する。だから、この本は頽廃的だと言われたのである。

ヴァーチャル志向

デ・ゼッサントが引きこもったのは、どのような家なのか。

たとえば食堂を見てみよう。
デ・ゼッサントは、食堂の中に入れ子のようにして、ひとまわり小さい部屋を作った。その部屋の窓は、船の側面にある舷窓に似せてある。そして、この窓の外側、食堂の本来の窓とのあいだに巨大な水槽を設置した。

 こうしておいて彼は、自分が二本マストの小帆船の三等室にいるものと想像し、時計の部分品のように組み立てられた、機械仕掛の精巧な魚たちが、舷窓のガラスの前を去来したり、模造の海草にからみついたりするさまを物珍しそうに眺めるのであった。

自宅の食堂に居ながらにして、大海原を航海する船中の気分が味わえる仕組みだ。
デ・ゼッサントは思う。現実の中で欲望を満たすよりも、人工的な仕掛けと想像力によって、欲望を満たすほうがいい。むしろ、そのほうがずっと快適だ。

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