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スキャンダルは虎の肥やしになるか?

2009年12月14日(月)

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 タイガー・ウッズのスキャンダルは、日を追って巨大化しつつある。
 どこまで行くのだろう。

 話半分として受け止めたのだとしても、既に突拍子もない領域に到達している。
 私は、いまだに全容を把握できていない。

 というよりも、話半分すら飲み込めずにいる。
 具体的に申し上げると、私は

「スキャンダルが発生しているぞ」

 という外形だけを了解して、詳細については目をふさいでいるのだ。うん。なさけないと思っている。でも、これが、ファンと呼ばれる者の偽らざる反応の仕方なのである。

 私は、タイガーがアマチュアだった時からのファンだ。
「追っかけ」と申し上げても良い。
「信者」かもしれない。

 さよう。これまでにも私は、モハメド・アリを崇拝し、マラドーナに血道をあげ、マイケル・ジョーダンを応援し、最近ではクリスティアーノ・ロナウド選手に憧憬を抱いている。つまりアレだ、私はスーパースターに弱いのだ。

 わたくしども栄光や勝利と縁の薄い小市民は、スーパースターがスーパーであることのおこぼれにあずかって生きている。
 彼らの勝利をわがこととして喜ぶことで、なんとか冴えない日々をやり過ごしている、と言い換えても良い。
 そういう私にとって、タイガーは、憧れの存在、というだけでは足りない。
 「恩人」みたいなものだ。
 退屈な日常に興奮とスリルをもたらしてくれる太陽みたいな存在。

 そう。私の脳内では、タイガーは、年の若い従兄弟ぐらいな扱いになっている。だから、タイガーが勝つ度に私は誇らしい気持ちになる。どうだ? ウチのタイガーを見たか? あれはオレが若い頃から目をかけていたヤツなんだ、と。

 そのタイガーがスキャンダルに見舞われている。
 なんという悲劇。
 そうだとも、これは悲劇だ。
 不祥事や不始末であるというふうには、私は考えない。
 降って湧いた変事。
 藪から棒にもたらされた災難。

 フェアウェイに穿たれたディボット穴みたいなハードラック、と、そういうふうに考えたいのだな。あくまでも、偶然、厄災、凶事、奇禍、不運、アクシデントであると。
 このスタンスは、心配性の祖母が孫の騎馬戦を見ている時の視線にちょっと似ている。

「これこれ、タイガーや。そっちに行ってはあぶないよ」

 祖母は、孫が池のそばに行く度にひやひやする。
 足を滑らせておぼれたら大変だからだ。
 
 あるいは私の立場は、息子が万引きをしたという電話を受けた直後の母親の態度に近いのかもしれない。

「ウソ。ウソだわ」
「これはワナよ」
「いったい誰がうちのコを陥れようとしているの?」
「あのコをたぶらかしたのはどこの女?」
「何がうちのコをそこまで追い詰めたの?」
「ああ神様どうして世間は私の息子にばかり完全を求めるのでしょうか」

 今回、私は、原稿を書くに当たって、当スキャンダルの具体的な細目には触れたくないと思っている。

 できれば、

 「どうしてスーパースターはスキャンダルに見舞われるのか」

 というお話として、ストーリーを展開したい。

 そう、「見舞われる」と、受動態で描写しているところがポイントだ。ひいきの選手は、被害者の立場に置く。ファン目線の基本だ。

「伸二はどうして肝心なところで怪我に襲われるのか」
「マラドーナはどうしてコカイン・シンジケートに引き込まれたのか」

 スーパースターは、責任とは無縁な存在だ。罪や悪事や失敗とも無関係。どこまでも無傷。なぜなら、完全であることが彼の仕事だから。

 スーパースターは、われわれの成功を代行せねばならない。

 その意味で彼は、不死身であり、永久に不滅であり、永遠に無傷だ。そうあってもらわないと困る。誰がって、オレがだ。

 ファンが甘やかすからスターが増長する、と?
 違うな。全然違う。
 いまだに勘違いしている人々がいる。

コメント20

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「スキャンダルは虎の肥やしになるか?」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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