(前回『理系クンが書くマニュアルが読みづらい理由』から読む)
理系クンは「ハードボイルド」なのかも
山中 ……「理系夫」本のみの印象で言いますが、渡辺さんの夫のかたはちょっとハードボイルドな感じもしません? 何かこう、禁欲的というか。
渡辺 どんなところがです?
山中 本でもありましたよね。「盲腸になったのでは」と疑うような腹痛のときも、救急病院に行く直前まで、アニメを録画するビデオテープのラベル作りをしていたという。
渡辺 ああ……。そのまま入院になっても、私が間違えずに録画できるようにとの彼なりの「配慮」でした。
山中 脂汗を流しながらカッターでしゃーっ、しゃーっと切り続けていたとか。あれは読んで泣けた。
福地 あっ、ハードボイルド、それ分かります。分かります。渡辺さん、僕たちがどういうマインドでいるかというと、「余分なところにエネルギーを注ぎ込まないで、俺の一番大切なところにすべてを向けるんだ」というイメージなんですよね。
【プロフィール】
福地健太郎:インタフェースデザイン研究者。科学技術振興機構ERATO五十嵐デザインインタフェースプロジェクト研究員。
渡辺由美子:アニメ・コミックをフィールドにするカルチャー系ライター。当サイトで「アニメから見る時代の欲望」を連載中。
山中浩之:日経ビジネスオンライン編集委員、渡辺氏の担当編集。
山中 そう。前回出たキーワード、着るもの喰うもの住むところは「無難でいい、定番がいい」というのは、衣食住はどうでもいい、それよりも優先するものがあるから、という結果そうなっているんじゃないでしょうか。
ハードボイルドって、ある種の自己陶冶というんでしょうか、自分を律することにうるさい話、と言い換えることもできると思うんです。「俺はこういうことはしない、なぜならこちらが優先するから」という。殉ずるものは何でもいいんです。そして殉じる度合いが高いと、大学が文系か理系かは関係なく、ここでいう「理系クン」の濃度がぐんぐん上がっていく。
渡辺 え、夫はアニメの録画コレクションに殉じているということですか!?
山中 自分が目標とする録画の完成形があって、それに向かっている時は、他のことは犠牲にしている。目的以外のものは全部切り落とすという方向で、ぐぐっと一点に集中していくわけ。だけど、普通の常識では、「そこまでやるのは無理でしょう」というのがある。
渡辺 まったくですよ。救急病院に連れて行ったらやっぱり盲腸でした。ビデオのラベルなんかいいから一刻も早く病院に行って欲しい!
高い山に登る、そのためにすべてを捧げたい
山中 というわけで、「理系クン」的志向を突き詰めていくと、自分自身の身なりとか食うものなんかにあまり興味が向かないということへの理由が見えますよね。そんなエネルギーがあるなら、もっと高い山の、より高いところまで登りたいという。
渡辺 高い山ってどんな山?
山中 それこそが、自らの持っている、持ちたいと願っているスキルなのではないでしょうか。
福地 そうそう。お金の使い途もそうだよね。ファッションとか、自分の身の回りに投資するよりも、自分のスキル向上のために投資する。これは僕の想像なんだけれども、会社員でプログラマーをやっていて、それが楽しいという人がいたら、その人のアイデンティティは「○○社の社員」じゃなくて、「俺はプログラマーだ」というところに軸足を置くと思うんですよ。僕も、もしも経験や名声というものが積み上がっていくとしたら、自分にというよりは、仕事のスキルに積み上がっていく方がいい。
渡辺 自分自身より、スキルのほうがウェイトが高いんですか。
福地 うん。
山中 たとえば、渡辺さんは、ライターとしての腕さえ評価されれば、のこりの自分自身は評価されなくても良い、という気持ちはありますか。
渡辺 ないですね。逆に、私自身を認めてもらえるんだったら、別に文章じゃなくてもいいかな、と思っちゃう。夫は明らかに「僕はシステムエンジニアだ」のほうですね。僕の技術に信頼を置いてほしい、僕自身の評価はいいからというところがあって。私みたいに「丸ごとの私を認めて欲しい」という気持ちはないみたい。
山中 スキル志向の純度の高い人が、たぶん、ここで言う「理系クン」みたいな感じになってくるんじゃないですかね。

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