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『被写体』は、あのひとの夫
~「上から言われて」やってくる「敵」。不条理な闘いの結末は?

2010年1月6日(水)

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被写体

被写体』三浦友和著、マガジンハウス文庫、650円(税抜き)

 しばしば、「あちらとこちら」のみえないラインが気にかかる。先日も、アニキの愛称をもつ俳優さんが結婚したとの一報が、テレビの速報で流れたのを又聞きした。長年脇を固めてきたシブイ俳優さんで、近ごろはCMでもおなじみとはいえ、イケメンアイドルでもないだけに速報の扱いが意外だったのだが、それにしてはワイドショーが話題にするのかと思いきや、まるで無反応。じゃ速報はなんだったのか? 地震速報でもあるまいに。

 もともと「記者会見」をするひと、しないひとの線引きが気になって仕方ないのは、ワタシだけだろうか。「バンセン」といわれる宣伝のためにするのはともかく、結婚だ離婚だといったワタクシゴトで会見を開いたり(基本は自腹らしい)、マスコミ各社にカクカクシカジカでこうなりましたとFAXして当然と思われるひとと、「はぁ?」と返されるひとの境界線はどのあたりにあるのか。自分はどちらにあるのか、迷うひとはいなんだろうか。まあ、どうでもいいことなんだけども。

四六時中「監視」される家族生活

 さて。本書は、「会見グループ」の認定ランキング上位にありつづけてきた、ある一家の話だ。

 綴られているのは、けっこう衝撃的な場面の連続である。

 早朝7時に、身体の弱い義母が、二歳の孫と散歩に出ようとしたら、ドヤドヤとカメラを構えた男たちが追いかけてくる。

 孫はおびえきってしまい、義母はうろたえるばかり。その姿を目にして、著者は怒りを通り越し、いたたまれない気持ちにおそわれる。

 長男の幼稚園の入園日は、こんなものではなかった。まさに自宅を一歩出るとそこは、押し寄せる記者たちに取り囲まれ、まさに戦場。クルマで幼稚園まで向かう間、信号に差し掛かると、

〈止まろうとする車に、ぶつかるようにカメラマンが前後から突進してきて、揺れる車にストロボを浴びせる〉

〈子供が泣き出した。妻が大丈夫よとなだめても、怖い怖いと言い、泣き声は次第に大きくなっていった〉

 著者はクルマを降り、やめてくれと叫んだ。しかし騒ぎは収まるどころか、開いたドアの隙間から車内に片手でカメラを突っ込み、後部席にいた妻と子供を撮ろうとする。

 混乱状態のなか、とうとう著者はカメラマンを殴ってしまう。そして、入園式に出ることをあきらめ、自宅に引き返した。

 本書を手にしている間、なんども思い浮かんだのは、平穏な一家が鳥の大群に囲まれる巨匠ヒッチコックのパニック映画だ。

 時間をさかのぼれば、マンションのベランダを、超望遠レンズで盗撮されたこともある。カメラに臆して、妻は買い物にさえ出られない。四六時中、尾行され「監視」される状況に家族がさらされる。こうしたことが日常的に繰り返されてきたら、ひとは平然としていられるかどうか。

 それを耐えてきた。妻は、惜しまれつつ引退した歌手の山口百恵さん。夫は、俳優の三浦友和さん。いまさら紹介は不要だろうが、これは著者たる三浦さんが、「マスコミとの不条理な戦い」を体験した、唯一無二の視点から綴った観察記だ。

 もともと、三浦さんには、思ったことを書きとめる習慣があり、本にしようとして書いたというよりも、日記のようにして自分の考えを整理するためのものだったらしい。

 エッセイの末尾には書いた年が記してある。80年代から90年代。書かれた日から、単行本になるまでに長い時間の経過があったことがわかる。何があり、どう考えたのか。そのときのことを、できるかぎりクールダウンさせながらも、自分に都合よく修正しまいとする姿勢がうかがえる。自分を偽らないのが、三浦さんのあり方でもある。

 単行本が出てから文庫になるまでにも、さらに十年が経過した。十年一昔といわれるが、タレントが書いた本の多くは十年どころか、一年か二年で色あせてみえるものだ。

 しかし、これはちがう。古びてないのだ、どこを切り取っても。むしろドキドキするくらい新鮮なのだ。ビデオカメラの登場で、芸能取材が激変した様子などが「被写体」の目で考察されるあたりは、社会学のレポートのようでもある。そしてなにより、時代が急スピードで変化しているというのに、20年の前の出来事がなんら古びていないというのは、なんだか「怖い」。メディアのあり方は、よいほうに向かっているとは思えないからだ。

 だが、トラブルを通してこそあらわれる、光明のようなものもある。

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