自らの求める「スキル」に殉じ、その達成度を意識するために「客観性」や「網羅性」を重視しがち。会話に紛れ込む「アレ」や「ソレ」を嫌い、きちんと型番で言って欲しい。妻が「傘を持っていった方がいいかな」と言えば「降水確率」で返してしまう。あえて男と女、あえて文系と理系、で区分するとこのタイプ、どうやら理系の男性に多いみたいですが、もちろん、女性でも文系でもこういう方はいます。この連載ではそんな方々を「理系クン」と呼ばせていただいて、理系クンを夫に持ったライター、渡辺由美子さんを囲み、理系クン、非理系クン双方の毎日を楽しくする方法論を探ります。
【プロフィール】
福地健太郎:インタフェースデザイン研究者。科学技術振興機構ERATO五十嵐デザインインタフェースプロジェクト研究員。
渡辺由美子:アニメ・コミックをフィールドにするカルチャー系ライター。当サイトで「アニメから見る時代の欲望」を連載中。
山中浩之:日経ビジネスオンライン編集委員、渡辺氏の担当編集。
(前回「評価されないスキルを磨くことに意味はあるのか?」から読む)
渡辺 前回の最後に、山中さんは“理系クン”の持つ他人の評価やモノサシを気にしないというハードボイルドさは、使い方によっては武器になるんじゃないか、とおっしゃっていましたね。
そして“理系クン”である福地さんは、もちろん武器になる、と答えていらっしゃいました。人の評価を気にしないことって、長所になるんですか?
福地 前にマニュアルの話で、ユーザーの気持ちをはかるという話がありましたよね。「使う人の立場になって、使いやすいものを作ろう」ということを目標にするわけだけど、そうすると、ユーザーさんにお話を聞いて、その意見を取り入れればOKである、と普通は思うんです。
ところが、これもよく言われることですが、ユーザーさんが表に出してくる意見を聞き、気持ちを汲むだけでは、決して作れない製品がある。
例えば、セグウェイ(電動立ち乗り二輪車)を開発したディーン・ケーメンという発明家がいるんだけど……セグウェイというのはこういう乗り物です(持参したノートPCを開く)。
渡辺 立ち乗り自転車といいますが、発想が自転車の延長線ではない感じ。
福地 そう。アイディアが独特ですよね。そのディーン・ケーメン氏がインタビューで答えていたんだけれども、彼は車いすを作るために、ユーザーの方に話を聞きにいったんです。車いすにはどんな不満がありますか、どうしたらよくなると思いますかと聞いたら、ドリンクホルダーを付けてほしいとか、いろいろな答をもらうんだけど、彼らの話“だけ”を製品に反映していたら、非常にささいな改良になってしまうと。
でも、本当に彼らがしたいことっていうのは、健常者と同じように歩いたり行動できることのはずではないかと。だけれども、ユーザーの側からは、どうしても「車いすとはこういうものである」という意識があるから、既存の車いすのささいな改良になってしまう。
“お客様に合わせる”思考では「立ち上がる車いす」は生まれない
山中 なるほど。「POSデータを見ているだけでは、売れる新製品は生まれない」ということを、小売業界の方も言いますね。あれは本当は「仮説→検証」の道具なんだ、と。
福地 それで彼が作ったのは、iBOTという「立ち上がれる車いす」だったんです。上にういーんと伸びて、棚の高いところまで車いすに乗ったまま取れるという。そして、ユーザーの方たちに、こんなものができましたといってiBOTを使ってもらうと、みんな泣き出しちゃうんです。もう私には絶対に無理だとあきらめていたことができるようになった、という。
本当にイノベーティブに新しいものを作ろうと思うと、どこかで「ユーザー本位」というのを一瞬切り捨てて、エンジニアのエゴと捉えられてしまうかもしれないけど、とにかく開発者1人の発想だけでジャンプすることが必要なんじゃないのか、というようなことを彼は言っているんです。
だから、さっき山中さんがおっしゃった“理系クンの使い道”と言うとちょっと語弊があるけれども、どこかでストイックになってでも突き詰める力というのがないと、新しいものは出てこないんじゃないかなと。
山中 開発側の人も、自分自身の中に、普通の人と共通する欲望があると思うんです。この方はたぶん、「共通する欲望」を、ご自分の中から掘り当てたんでしょうね。
福地 恐らくそうです。漠然と表面的にリサーチしていたら絶対に見つからないものなので。
そこはどこかで……極端なことを言うと、相手を泣かせてでも聞かないと真の欲求は分からないわけじゃないですか。「本当は歩きたかった」と言わせる、というようなところまでいかないとたどり着けない。

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