「毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド」

59. イケメンのお百姓さんが作った野菜を食べたいですか?

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2010年1月13日(水)

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 日直のチノボーシカです。

 昨年の終わりごろ、大勢で呑んでいて、隣にいた人Aさんから、著名なクリエイターのBさんの話を聞いた。

 クリエイターというのもまあいい加減な言葉だが、映像作家とか文筆業者とか作詞作曲家とか漫画家とか美術家とか服飾デザイナーとか演出家とかゲームデザイナーとか、要するに自分の名を冠した「作品」を公に問うて商売している人のことだ。以下の話は特定の分野の話に縛られたくないので、この大雑把な言葉を使うことをご寛恕願いたい。

 Bさんはたいへんに著名でたいへんに人気がある。私もその作品を知っている。いままで何人かの人にも、Bさんの作品はいいよ、と薦められたことがある。作品だけでなく、Bさん自身もさまざまな媒体に露出している。

 Bさんは幼少期に金でたいへんな苦労を体験した人らしい。金以外でもいろいろ苦労した人だという。そのことはよく知られていて、Bさんに詳しくない私でもなんとなく漏れ聞いたことがある。

 そして、金というのは馬鹿にならないものだ、ということを身上にしているし、作品にもその考えがはっきり出ているらしい。世の中最後は金だ、とまで言ったかどうか知らないが、その覚悟が作品に漲っているそうだ。

 呑み会で隣席にいたAさんは、Bさんのそういうところを絶賛していた。すばらしい、と。

 そうか? と私は思う。ここには、三つのことがごっちゃになっているのではないか。

1. Bさんが「金は大事だ」と考えていること。

2. Bさんの作品が大成功して、Bさんに現に巨額の金を齎していること。

3. Bさんの作品がAさんにとって良いものであること。

 以下、私が言いたいことは、Bさんの考えかたが正しいかどうかではなく、Aさんが──つまり著名なクリエイターではなくひとりの文化の受信者・エンドユーザ・消費者である私たちが──文化を受信するときに、どう考える癖があるか、という話である。

*   *   *

 まず、金が大事だというBさんはまったく間違っていない。でもそんなことは、ふつうに生きている人ならだれでも思うことだ。

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著者プロフィール

千野 帽子(ちの ぼうし)

パリ第4大学博士課程修了。京都在住の勤め人・俳人。2004年より休日のみ文筆業。著書に、「東京新聞」連載をまとめた『文藝ガーリッシュ 素敵な本に選ばれたくて。』『世界小娘文學全集 文藝ガーリッシュ舶来篇』(河出書房新社)、「野性時代」連載をまとめた『読まず嫌い。』(角川書店)、読書漫筆集『文學少女の友』(青土社)。「ミステリマガジン」「ジャーロ」にて連載、また「東京新聞」「讀賣新聞」「SPUR」「Figaro japon」「BRUTUS」「HanakoWEST」「yomyom」「週刊文春」「文藝」「文學界」「すばる」「ユリイカ」「真夜中」「小説トリッパー」「早稲田文学」「ダ・ヴィンチ」「週刊読書人」「別冊宝島」などに寄稿。



このコラムについて

毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド

この連載は、「働く大人」の読者の疲れを癒し、リフレッシュして勤労意欲を高めるのに向いた文学作品のガイド、では断じてない。そうではなく、こちらが文学の世界に単身潜入して、大人の読者に向けてレポートするものである。ここで取り上げるのは、働くということにまつわる、個別の奇妙さ、ヘンテコさ、そこから立ち上がってくる疑問をうじうじと、ひとつひとつ拾っていく、そんな文学や漫画。私たちが毎日そんなことをしていれば、仕事が立ち行かなくなるから、代りに文学がそれをやってくれている。腸内細菌のようなものだが、腸内細菌と違って、なにかの役に立つという保証がないのが文学だったり漫画だったりするのである。そういうものを紹介する連載だ。だから、仕事中にこっそり読んでほしい。

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