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したくもない「雑談」をするスキルなんて、本当はいらないんじゃない?

『ワタシの夫は理系クン』鼎談・その4

  • 山中 浩之,渡辺由美子

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2010年1月15日(金)

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(前回「『むさぼり食う』ことでも興味フラグは立つもんだ」から読む)

ワタシの夫は理系クン』(渡辺由美子、NTT出版)

渡辺 ところでこの理系クン鼎談シリーズ、何がゴールなのかまだ決まっていませんでした。私がなんだか抵抗を感じるのは、「理系クンはコミュニケーション能力をもっと上げろ」みたいな結論かな。

山中 渡辺さんからそういう発言が出るとは意外ですね。前回、「好奇心を持てる範囲を訓練で広げる」という方法論で、コミュニケーションスキルは上げられる、という、とりあえずのいい話になったところなのに、これが結論ではイヤだと。

福地 僕もそれは避けたい。訓練でコミュニケーションスキルが上げられるという話は、「相手の世界観を丸ごと認めて褒めてやれ、そうすれば相手はご機嫌だ」みたいな、何だかトークがうまいホストみたいになれということか、と誤解されちゃいそうで。

山中 そうなのかなあ。なんででしょうね。

福地 だって、そもそもなぜここで「理系クン」という話題を出して茶飲み話をしているかというと…

山中・渡辺 茶飲み話だと認めちゃったよ。

無理矢理努力までして「コミュニケーション」する意味はあるのか

福地 つまり、いわゆるコミュニケーションが不得手な人たちについてのお話をしているわけなんだけど、無理をして不得手を克服する必要があるのか、得意なことをもっと伸ばしていった方がいいんじゃないかという思いもあるんですよ。コミュニケーションというのは、やりたくない人が無理矢理努力してまで身につけねばならないスキルなのか。

 学生さんを例にしてさんざん言った自分がこんなことを認めるのも何ですが、無理して他人の話を聞くのがうまくなくってもいい、社会を回すエンジンとして生きていくというので十分幸せなんじゃないか。そこはいつも悩むところですね。

山中 ひとつ思うのは、すくなくとも誰しもが「コミュニケーション強者」にならなくてもいいんじゃないか、ということです。

 万人とうまくやるのは無理だ、という話が前回出ましたが、自分を騙しきれる人ならば、実はできなくはないんですよ。とにかくある種、「私はなにがなんでもアナタを100%理解しますよ」という、疑似的な好意・好感なみたいなものを発散して、相手の好感を引き出す手法が使えれば、相当いいところまでいけると思う。だけど、そういうことを誰にも求めるのは正直気持ち悪いと私も思うんです。

渡辺 誰にでも満遍なくいい顔をするというのはね。前に私、「女子はオールマイティを求められる世界にいることが多い」という話をしてたでしょう。あれを理系クンに適用するのかと思うとキツイ。

福地 そうだ。「コミュニケーション能力が欠けている」という文章を見たときに、「え? 俺のことだ、どうしよう」と思ってしまうような、コミュニケーションに苦手意識のある僕みたいなタイプが想像するコミュニケーション能力って、たぶん「誰とでも過不足無く、オールマイティに話せる」コミュニケーション能力に近いんじゃないかと思うんですよ。

山中 そうそう、そうだと思うんですよ。

渡辺 そうだ。

山中 万人と、誰とでも、一目置かせて、しかも当たり障りなく、がコミュニケーションの正しいモデルだ、みたいに。

渡辺 私は、スキル1点特化型である理系クンは、オールマイティ志向から自由でいられるんじゃないかと思っていたけど……。

山中 そうでもないんじゃないかな。渡辺さんの本を読む限り、理系クンはきっと、人の話をいい加減には聞かない、というか聞けないから、むしろその無茶なハードルも正面からまともに受け止めて、悩んでしまうんじゃないでしょうか。しかも最近はビジネスの現場でも、「技術だけでなくコミュニケーション能力も磨け」という流れになってきている。真面目に仕事してるだけじゃダメだ、プレゼンが上手くならないと提案を通すこともできないぞ、みたいな風潮にどんどんなってきているし。

渡辺 それはしんどいですね。つまりうちの夫とか、「僕はコミュニケーションが苦手で」と前置きしてしまうような人は、コミュニケーション能力とは「オールマイティであれ」、ということだと感じて、抵抗感を持っている?

福地 そんな気がしますよ。コミュニケーション能力があるという状態は、「誰とでもフランクに話せる」ことであると思っていると思う。

渡辺 それで時々起こる不思議な現象に納得がいきました。周囲の「理系クン」で時々、自分がいかにコミュニケーション能力がないか、という話をする人がいるんですよ。

 「自分はこういう性分で、それゆえこのような体験談がありまして、だから僕はコミュニケーション能力がないんです」みたいなことを、目の前の私とか友達に説明するんですね。理路整然とした美しいしゃべりで。え、今あなたがしていることはコミュニケーションと違うの!? みたいな。面白い現象ですよね。

「コミュニケーション」と「ダイエット」は似ている

福地 理系カフェ(第3回参照)はそれの見本市みたいでしたね。キャストの1人として参加していた僕も、楽しいと思う一方で、自分にはお客さんとうまく話せるコミュニケーション能力があるのか? と自問自答することもありました。

渡辺 福地さん人気者だったじゃないですか。

福地 いやいや、自分の中ではプレッシャーがありましたよそれは。

 思い返すに、いかに自分たちが「コミュニケーション」というものを万能薬と思いたがっていたかと。薬というか、万能の道具、何でもできるものだという。そして、それがないと、誰一人として会話ができないぐらいの。

【プロフィール】
福地健太郎:インタフェースデザイン研究者。科学技術振興機構ERATO五十嵐デザインインタフェースプロジェクト研究員。
渡辺由美子:アニメ・コミックをフィールドにするカルチャー系ライター。当サイトで「アニメから見る時代の欲望」を連載中。
山中浩之:日経ビジネスオンライン編集委員、渡辺氏の担当編集。

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