「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明」

ひとりぼっちのPHSに家族をください

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2010年1月18日(月)

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 ウィルコムがいけないようだ。

 新聞の記事は、「公的機関の企業再生支援機構を活用して再建を目指す方向で最終調整に入った」というふうに描写している
 仮にこれが「死んだふり」なのだとしても、芯から健康な人間は、そういうことはしない。

 心配だ。
 おおむね予想のついていたことではある。が、いざ現実化してみると、やはり残念。もうすこし頑張ってほしかった。

 私は、ウィルコム以前からのPHSユーザーだ。
 詳しく述べると、1997年、ウィルコムがその前身であるDDIポケットとして営業していた頃からだ。 

 当時、東芝がGENIOというPHSベースの携帯通信端末を発売しており、私は、とある雑誌(←いまはもう無い)でレビューを担当した。で、その縁で、現物を貸与されて、以来PHSを使うようになったのである。貸与といっても、返却は想定されていなかった。事実上のバラ撒き。昔はそういうことがよくあった。それほどに、デジタルのガジェットは短命だったのだ。雨上がりの空にかかる七色の橋みたいに。虹。一時の夢。惨事の前兆。ははは。

 この種の永久貸与は、取材に伴う特権といえばそうも言える。が、実際には、ありがたいばかりのものでもなかった。貸与にともなって、私は、PHSのユーザー登録をせねばならなかった。自腹で。当たり前だが。でもって、以来、十年以上にわたって、その時の電話番等を保持し続けたわけだ。

 最初の五年間ほど、私はこの電話をほとんど使わなかった。

 どうせ番号を誰かに教えても催促の電話がかかってくるだけだし、こちらから誰かに電話をかける必要は私の側にはなかったからだ。

 ともだち?

 いないこともないが、移動中に話をしなければならないほど切羽詰まった関係の友人はいない。
 「トレインスポッティング」という小説の中で、主人公の一人が印象的なセリフを言っている。

「ジャンキーにはともだちなんかいない。売人がいるだけだ」

 私はジャンキーではないが、学生でもない。だから、ともだちには滅多に会わない。会わなくても心が通じ合う人間を親友と呼ぶ――というのは、そうです、強がりです。今の言い方を敷衍すると、世の中には、会いたくない人間と、会う必要の無い人間がいるだけということになる。もちろんそんなことはない。ともだち同士は、顔を合わせなければならない。できれば、電話なんかではなく。

 2005年頃からは、さすがに、少しずつ利用するようになった。

「携帯の番号は?」

 と尋ねられる機会が増えたからだ。
 この期に及んで

「携帯電話は持っていません」

 と言い張るほど私は自信家ではなかった。この言い方(移動体通信端末を持っていない旨を言明すること)が、相手の耳に

「オレは誰の飼い犬でもないぞ」

 という宣言として響いていることに、さすがの私も気づいたということだ。やっとのことで。 

 で、GENIOも買い替えて、小型の通話専用の端末を持ち歩くようになった。
 さてしかし、いざ使いはじめてみると、PHSにはいくつか、問題点があった。
 列挙すれば、

1. 田舎に行くとつながらない。
2. 高速移動中(自動車や電車)は、通話が途切れやすい。
3. 携帯電話との間での通話料が割高。
4. PHS間の通話は割安もしくは無料だが、知り合いにPHSを持っている人間はほとんどいない。いても変わり者のみ。

 といったあたりの弱点が、だ。

 で、2009年の4月、私は、PHSの回線を解約して、携帯電話に乗り換えた。
 きっかけは使っていた端末の電池がヘタってきたからだ。

 バッテリー交換をしようとショップに行ってみると、ブツを買ったショップは既に閉鎖していた。そう。PHSの代理店は、ある時期から、櫛の歯が欠けるように減り続けていたのだ。

 ネットで店舗を検索して出かけてみると、バッテリーは取り寄せになるという。ええ、旧旧型ですから。ダイヤル旧旧。しかも、えらく高い。ちょっと余分に出せば新しい機種に手が出そうだ。

 ……ここで私は考えた。

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著者プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

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