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「感動」と「退屈」、あなたが本当に欲しいのはどちら?

『アドルフ』バンジャマン・コンスタン著

2010年1月26日(火)

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感動したがり屋アドルフの「作為的な」恋

アドルフは、大学を卒業したばかり。成績は優秀だったうえ、父親は大臣。将来はきわめて有望だ。きっと気合いと希望に満ちあふれて、毎日を明るく過ごしていることだろう、誰もがそう想像する。

ところが違うのだ。
彼は鬱屈していた。どうしようもなく退屈していた。シニカルな性格が災いして、単純に喜んだり楽しんだりはできなかった。
感動を、魂をふるわせるような感動を、彼は求めた。
でも、どうすれば感動が得られるのだろう。
どうすれば?

アドルフは、恋をする……ことに決めた。
出会いがあったわけではない。紹介があったわけでもない。
ただ感動したいがために、意図的に、作為的に、「恋愛というものをしてみよう」と計画したのである。

魅力的な女性を選んで、アプローチする。
うまくいけば達成感を覚え、自尊心も満たされる。退屈しているオレだって、さすがに「感動」するだろう。
そんな計算づくのゲームのようにアドルフは考えていた。

ターゲットは「美しい嵐を見るよう」と形容される、美しさと激しさと気高さを備えた女性エレノール。彼女はアドルフより10歳ほど年上で、彼の遠縁の伯爵の、なかば公然たる愛人であった。

……1816年に発表された小説『アドルフ』、屈折した恋の物語は、こうして幕を開ける。作者は、バンジャマン・コンスタン。スイス出身。フランスで市民権を得て政治家になった。兼業小説家だ。
この小説には作者自身の体験が反映されていると言われるが、それはそうだろう、そうでなければ主人公の心の動きを、これほど細かくていねいに描くことなど、できるはずないと思う。

『アドルフ』はそんな小説、「心理小説」なのである。

どう見ても彼女に夢中になっているのだが……

 自分では、冷静で公平な観察者として、彼女の性格と才気を見回しているつもりだった。だが彼女の口にする一語一語は、言いようのない優しさに包まれているように思われた。彼女の気に入られようとする企ては、私の生活に一つの新しい興味を与えて、これまでになく生活を活気づけた。

アドルフの恋愛ゲームが始まった。
それは彼の予想を超えて、もっと甘く、ずっと心躍るものだった。以前には見えなかった彼女の魅力が、強く鮮やかに目に映る。世界中の空気が輝きを増し、時間が、「流れる」というより、ポンポンと弾みだして、生活の進行が妙に勢いづいてくる。
素晴らしい!
いつの間にだろう、それは「ゲーム」なんかではなくなっている。

私はエレノールを愛してるのだとは思わなかった。だが今となっては、エレノールの気に入らなくてもいいと思い諦めることはできなかったであろう。彼女のことは片時も心から離れなかった。

「愛してるのだとは思わなかった」だって?
何を言っているのだろう、この男は。
冷静な自己観察にもとづいた、正直な言葉なのだろうけれど、しかし、「思い諦めることができない」と言っているではないか。「片時も心から離れない」状態ではないか。
これでもまだ愛と呼ばないとしたら、いったいどんな気持ちになれば、愛していることになるのだ?

アドルフは気づいていない。ゲームのように恋をもてあそんでいるつもりでいて、実は自分のほうが恋に鷲づかみにされ、振り回され始めていることに。エレノールは、すでに自分には欠かすことのできない存在になっている。彼は自覚もせずに、しかし、深く大まじめにエレノールを愛している。

証拠はいくらでも。
たとえば彼女に会えないとき、アドルフは、ひどく苦しむ。

われながら自分の苦しみ方に驚いた。自分が欲しているのはただ成功だ、ただ試しにやるだけのことだから、まさかの場合にはわけなく諦められるさ、と独りぎめしていた頃のことが思い出された。この胸もはり裂けんばかりの、激しい、抑えがたい悩ましさは、どうにも納得がいかなかった。

「納得がいかなかった」とは……なんていびつな自意識だろう!
アドルフは、こんなにも彼女を愛している。
「夢中だ」と言ってもいい。
それなのに彼の意識は、自分が愛していることを認めない。
心の浅いところばかり細かく観察して解釈するが、その奥までは決して目が届かない、中途半端な自己分析マニア。それがアドルフだ。

恋愛の成就は倦怠を生む

やがて、アドルフとエレノールの間には恋愛関係が確立する。ふたりは安定した関係になる。
安定……しかし恋愛において「安定」は、同時に「倦怠」や「束縛」とも感じられるだろう。
アドルフは、恋愛につきものの、そんなマイナス面ばかりを気にとめるようになる。今度はエレノールから離れたい、距離を置きたいと願う。

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