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たぶん世界一簡単な『純粋理性批判』からの学び方。

『純粋理性批判』イマヌエル・カント著

2010年2月16日(火)

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マッドサイエンティスト!

18世紀のドイツに、カントという名の哲学者がいた。
そう知ったのは、中学生のときだ。
当時高校生だったから、「偉大なカント」の話を聞かされたのだ。

とはいえ、何しろ高校生と中学生の会話である。

カント哲学の内容そのものには一歩も足を踏み入れることなく、話は人物像や逸話に終始した。兄が語るその口調は、まるでカントが今現在、海の向こうで大ブレイク中のロックスターであるかのように熱かった。

哲学者といえば、やっぱりカント。カントで決まりでしょ。自然科学の研究もしていたというし、天才だよね。性格も実に哲学者らしい哲学者で、やることなすこと厳格このうえない。毎日必ず決まった時刻に同じ道を散歩するものだから、近所の人々はカントの歩く姿を見て、時計の針を調整していたんだって。オマエ、信じられるか? とにかく、それぐらい偉いヤツなんだ。哲学の歴史はすべてカントに流れ込み、その後はすべてカントから流れ出たと言われるほどさ。カント哲学はあまりにも画期的で、それまでの哲学を根本からひっくり返したものだから、その衝撃を「コペルニクス的転回」と呼ぶんだぜ。

兄の話に耳を傾けているうちに彼のカント熱がたちまち伝染して、(その哲学の内容は何ひとつ知らないまま)カントを尊敬しかけていたぼくだったが、しかし、カントが自分の哲学を「コペルニクス的転回」と呼んだと聞いて、少し嫌な感じがした。

コペルニクスは、地動説を唱えた人だ。
16世紀前半、人々がみな「太陽が地球の周りを回っている」と思っていたときに、反対に「地球が太陽の周りを回っている」と考えた。
それは、文字通り「驚天動地」の主張だったろう。

カント、とかいう人は、ずいぶん自信たっぷりじゃないか。自分の仕事がいくら新しいものだからといって、それを「コペルニクスなみの偉業」と見なすなんて。

「定刻どおりの散歩」のエピソードも合わせて、結局、ぼくの頭の中で、カントはSF映画に出てくるマッドサイエンティストのような像を結んでしまった。
頭はいい。天才的に頭がいいのは間違いないが、良すぎて、何を言っているのか、誰にも理解できない。過剰に几帳面で、思い切り他人を見下した、自信たっぷりで独りよがりの嫌なヤツ。

こうして良くも悪くもカントを気にかけるようになったが、ぼくが実際にカントの本を開いたのは、高校生になってからだった。主著『純粋理性批判』だ。タイトルの意味さえわからない。しかも、哲学書の中でもとびきり難しく、序文だけでも数十ページあると聞かされていたので、及び腰で、おそるおそる手に取った。

そして、文字通り「手に取った」だけで終わった。目を通したのは、献辞や序文の1、2ページのみ。序文の先の本文を、はるかに遠くに連なる山脈のように眺めつつ、ぼくはあっさり挫折した。

その後、何度『純粋理性批判』に挑んでも、高校生のぼくは序文を抜け出すことさえできなかった。

兄が教えてくれなかった「コペルニクス的転回」の意味

ただしそれでも、つまり序文の終わり近くまで読んだだけでも、ぼくが持っていたカントのイメージは変わった。ぼくが悪いイメージを持つきっかけとなった「コペルニクス的転回」という言葉、それはぼくが理解したような意味ではなかったのだ。

カントは序文で、自分たち哲学者が形而上学(という哲学の一部門)を発展させられず、いつまでも模索を続けているだけで、もう行き詰まってしまったと述べている。そして、続けて、次のように書く。

〔……〕それともこれまでの道が間違っていたというのなら、我々が新たに行くべき道を探して先人よりも仕合わせになるためには、どんな指示に頼ったらよいのだろうか。
 そこで私は、次のようなことをしてみたらどうかと思うのである。

そうして、その後で、コペルニクスによる「天動説から地動説への転回」に言及するのだ。

コペルニクスは、すべての天体が観察者の周囲を運行するというふうに想定すると、天体の運動の説明がなかなかうまく運ばなかったので、今度は天体を静止させ、その周囲を観察者に廻らせたらもっとうまくいきはしないかと思って、このことを試みたのである。

つまり「コペルニクス的転回」という言葉は、カントが自分の業績を、その成果の大きさや新しさを自慢して、「天動説が地動説に変わるくらい画期的だ」という意味で使ったのではなかった。

「どこまで考えても解決しないときは、たとえ常識に反するとしても、考え方を180度変えてみろ!」

そういう発想転換法のことを、カントは「コペルニクス的転回」と呼んだのである。
そして、自分たちも今、どう考えても先へ進めなくなっているのだから、「コペルニクス的転回」(常識に逆らって正反対の方法や原理を試みること)を採用すべきだと言っているのだ。

がりがりと頭をかきむしる

カントは、ひとりよがりのマッドサイエンティストではない。
一生懸命考え続けているのに、どうしても解決できない難問にぶつかって、悩み、途方に暮れ、頭をかきむしっている男だ。

「このままでは、もうどうしようもない!」

それで、人一倍の常識人間のくせに、勇気を振り絞り、目を血走らせて、あえて常識に反する暴挙、今までとは正反対の発想をしてみようと心に決めたのである。

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