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百貨店で不景気を語るなかれ

2010年2月22日(月)

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 平日の百貨店を一時間ほど歩くと、それだけで確実に意気消沈する。

 空気全体が、店員のため息でできているみたいな、そういう独特の湿っぽさを胸一杯に吸い込むことになるからだ。
 景気対策上、都心にああいうものを放置しておいてはいけないと思う。いや、マジで。

 百貨店を一巡りした私の脳内は、不況感で満たされる。だから、一階の化粧品売り場の脇を抜けて店外に出る頃には、もともと抱いていたはずの購買意欲は、雲散霧消してしまっている。それほど、百貨店の負の内圧がもたらす景況感は、真っ逆様だ。スペースマウンテンの乗り心地。暗く、低く、底の見えない感じ。どこまでも落ちていく怖さ。

 今回は百貨店の、過去と現在と未来について考えてみたい。
 

 つい先日、久しぶりに最寄りのターミナル駅のデパートを訪れた。
 とあるドイツ製のボードゲームを入手するためにだ。
 ついでにソフトダーツ用の部品を補充したいとも考えていた。

 入店して、まず毒気を抜かれた。
 あまりにも人がいない。
 エスカレーターに乗って上のフロアに行くほど空気が薄くなって行く。
 8階まで来ると、気圧は下界の半分、息をするのも苦しい感じだ。
 
 おもちゃ売り場に到着。店員さんに来意を告げて、商品名を伝える。
 と、彼女は、まずその商品が売り場に無い旨を詫び、昨年の12月にある新聞の日曜版にドイツ製ボードゲームの紹介記事が載って以来、何人かの客が来店し、そのモノを求めに来たという話をしてくれた。

「よろしければ、こちらにお取り扱いしている店舗のリストがございます」

 おお。彼女は当方の意図を先取りして、次に訪れるべき店を教えてくれようとしている。

「……どうも」

 恐縮してうまく言葉が出ない。そうしている間に、彼女は、店名の入ったメモ帳に水道橋のボードゲーム専門店の電話番号を書いている。サラサラと。訓練されたきれいな文字で。なんというホスピタリティ。同業他社の売り上げが、自分の手柄になるわけでもないのに。

 感動した。
 でも、何も買わなかった。
 結局、デパートには欲しいモノが無いから。ダーツの羽すら。

 不思議ななりゆきだ。
 あんなに巨大で、あんなに膨大な商品を陳列しているのに、それでも、ピンポイントで何かを探しに行くと、これがびっくりするほど、置いていないのだ。相当の確率で「申し訳ありませんが、当店ではお取り扱いしておりません」と言われるのである。

 私の購買行動は、百貨店のバイヤーが想定するお客様の嗜好とおそらくズレている。
 その分は差し引いて考えなければならない。
 確かに、私は百貨店を常用しそうな人々の趣味とは一番遠いところにいる男だ。

 が、それでも、昔は、ちょっと珍しいものや、うろおぼえの新商品、「新しい何か」を探す場合、やっぱりデパートが最後の砦だったのだ。私のような、高級志向とは比較的縁の薄い男であっても、地元の商店街に置いてないブツを入手する時には、とりあえず、デパートに向かった。多少高くても、とにかく「気になるモノはすべてが揃っている」のが百貨店の素晴らしさで、だから、昭和の若者は、好き嫌いは別として、デパートには一目置いていたわけだ。

 なのに、平成のデパートには欲しいモノが無い。
 最先端や最高峰に属する商品は専門店に行かないと手に入らないし、レアなグッズやファニーなアイテムを探すのなら、アキバやハンズに向かった方が話が早い。あるいは最初からネットで検索すべきなのかもしれない。

 いずれにしても、狙いのブツは、デパートには並んでいない。デパートにあるのは、総花的で典型的でぬるま湯的な、頃合いの商品。アップ・トゥー・デート(笑)ぐらいな見当の、適度に手垢のついたメーカーの一押し商品。あるいは、モノ雑誌とのタイアップ企画で動くトレンディ(おっと)なブランドモノ。カドの取れた高級品。そういう物件が漫然と並んでいる。もちろん価格面でははじめから勝負にさえなっていない。
 

 しかし、私(というか、昭和30年代生まれの人々のほとんど。たぶん)は、デパートの店内のあの淋しさに、なぜこれほど強く反応してしまうのだろう。

 好きな子が風邪で休んだ日の教室みたいな、色の褪めた感じ。
 あるいは、梅雨時のスキー場でリフトが雨に打たれている景色に似ているかもしれない。
 とにかく、平日の百貨店の広い通路には、枕草子の中で清少納言が「すさまじきもの」として列挙した無残さが横溢している。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「百貨店で不景気を語るなかれ」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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