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『奇蹟の画家』の絵を買った人々に何が起こったか
~「情熱大陸」ではわからない石井一男の評伝

2010年2月24日(水)

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奇蹟の画家』 後藤正治著、講談社、1700円(税抜き)

 石井一男という画家を特色付けるのは、たとえばこんなエピソードだ。

 40代半ばから独学で絵筆をとり、百枚をゆうに超える作品をもちなから、一度もひとに見せたことはなかった。どの絵にもサインがなかったのは、見られることを意識せずに描いてきたことを物語っている。

 彼を発掘したとされる画廊のオーナーが、個展をやろうといったあと、石井に要望したのは「これからは絵にサインを入れてください」だった。

 テレビの『情熱大陸』に取り上げられたから、記憶に新しいひともおられるだろう。石井の評伝ともいえる本書と番組の放映の関係では、本書の取材が二年間にわたって先行し、テレビがあとから追いかける格好で進んだ。

 石井一男のアトリエは、いまも変わらず神戸市内の長屋の一室にある。作品の大半が大学ノートサイズの小品なのは、空間的な狭さからそうなったらしい。ひとつのモチーフを突き詰めようとするかのように、童女のような聖母像を描き続けてきた。

『情熱大陸』が伝えた、仕事と暮らしぶり

 神戸で書店を営む画廊のオーナー・島田誠とめぐりあったのがきっかけで、49歳で初めて個展を開いた。それまでは皿洗いや新聞を駅に配送するアルバイトをしていたという。

 テレビは、キャンパスに向かう寡黙な画家のいまを、極端にいうと「ある一日」を静かに映し続けていた。「情熱大陸」らしくないつくりで、島田をはじめ、周辺のひとが出てきて話すでもなく、その仕事と暮らしぶりを映すことで、多くのものを伝えようとしていた。

 絵に関するディレクターの質問に対して、石井は幾度も「うーん」と言葉を探すのだが、次の言葉までの沈黙の長いこと。ひと嫌いというのでもないのは穏やかな表情からも伝わってくる。

 アトリエを兼ねた自宅は、神戸の震災で被害を受けて補修された木造の長屋。部屋は階段をあがった二間。風呂はない。独身で、さしたる家財道具もない。離れて暮らす母親の持ち家なので家賃いらず、月に7~8万円あれば足りるという。

 部屋に流れるのは、ラジオかカセット。テレビはあるが、新聞紙を被せたままで、使用されている形跡はない。食事は散歩がてら近くの商店街で、惣菜を買ってくる、それも夕方に値下げされたものを選んで。夜更かしはせず、落語を聴いて眠りにつく。

 しかし、わびしき貧乏とは異なる。パックの惣菜は、小皿に移しかえる。手を休めた時間の、和らいだ表情からは優雅さえ感じられる。モノにあふれた生活をしているコチラが、気恥ずかしく思えるくらいの簡素さである。部屋は掃除と整理が行き届き、収納の大半はほぼ完成と見える「未完成」の絵の保管場所となっている。うまくは説明できないが、何かが足りないのだという。

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