今回お送り届けするのは、マツダが産んだ世界の名車。“ロードスター”の開発者、“ミスター・ロードスター”こと貴島孝雄氏のロングインタビューです。
前号でも書きましたが、21年前にデビューしたロードスターの大成功を見て、“これはオイシイ商売だ”と多くのメーカーがオープン2シーター市場に続々と参戦してきました。そしてその多くが志半ばにして“討ち死に”してしまった。ローバー時代のMG-Fしかり、トヨタのMR-Sしかり、昨年静かに息を引き取ったホンダのS2000しかり、です。
多くのフォロアーが消え去る中、ロードスターばかりがなぜ生き残ることができたのか。現行車両は、当代重ねて3代目。最早“円熟”の境地に達したと言っても差し支えないでしょう。リーマンショック以降、さすがに売り上げ絶好調とは行きませんが、それでも世界中の根強いファンに支えられ、コツコツと販売台数を積み上げています。
3代目ロードスターはどのようにして産まれたのか。そしてその強さの秘密はどこにあるのか。そこには経営者を煙に巻いてしまうことも厭わない、貴島氏の強い信念と、したたかな計算があったのです。
「ほいじゃけんねぇ」。と興が乗る程に広島弁が飛び出す、ミスターが自ら語るロードスターの開発秘話。とくとご覧あれ。
* * *
フェルディナント(以下、F):始めまして。今日はよろしくお願いします。実は私、ここ何年かメディア対抗のロードスターレースに出場させて頂いておりまして。ロードスターには特別な思い入れがあるんです。
貴島(以下、貴):ああ、メディア対抗に出られていた。楽しいでしょう、あれは。
F:最高に楽しかったです。ロードスターは、私のようなヘボが飛ばしても十分に楽しめる。そのうえ価格もリーズナブル。この車を主査として開発された貴島さんからお話を伺えるのは本当に光栄です。
貴:現行のNC(三代目ロードスターのコードネーム。初代からNA、NB、NCと呼ばれる)ね、あれは本当は私がやるはずじゃなかったの。
F:へ? あの……。
貴:どんなメーカーでもスポーツカーの開発は憧れのポジションです、クルマを開発するエンジニアなら誰でも「やってみたい」と思うものです。それをNA、NBと2代続けてやらせてもらって、その合間にはRX-7の開発もやった。「自分はもう十分やったから、次のロードスターは後進の若い者にやらせよう」と思っていました。回りも含めて話はそっちの方向で進んでいた。
F:そうだったんですか。
貴:当時私は51歳か52歳くらいだったかな。これからはホンダのハシケンさんみたいに(注:昨年定年退職された本田技研の主席研究員、橋本健氏のこと)技術広報的な仕事が良いなぁ……なんて漠然と考えていた。そしたら経営会議の後に本部長が私の所にすっ飛んできて、「貴島君、次のロードスターも君にやってもらうことになったから」と。
F:結構な事じゃないですか。後進の方は気の毒だけど、トップからお声が掛かって、ミスター・ロードスターの面目躍如です。
進駐軍の「とんでもプラン」で三代目が危機に
貴:でもそれにはワケがありました。「とんでもプラン」が既に決まっていて、そのプラン通りにやれ、と。
F:「とんでもプラン」? どのへんが「とんでも」だったのですか?

貴:「重くてデカいボディ」に「大馬力のエンジンを」載せて……とアメリカ市場から出てくる要望を丸呑みしたような、マッチョなクルマを作れと。冗談じゃない、このままやったら俺のスポーツカーづくりの技術屋人生が終わってしまう。そう思ったから、「こんなんじゃダメだ。好きなようにやらせてくれ」、と抵抗しました。
F:なるほど。貴島さんのその抵抗が実って、今のコンパクトでライトウェイトな形に収まった。
貴:それなら良いんだけど、話はそんなに簡単じゃない。
当時マツダの株式の33.4%をフォードが握っていた。役員の半分もフォード出身の人間です。そのマッチョなロードスターの開発を決めた役員もフォードから来たアメリカ人だった。
F:うわぁ、それじゃまるで進駐軍だ……。
貴:(笑)。マーケット、開発、デザインも副社長もフォードの人。社長もそうだった。当時は私がどう騒いだところで、経営陣の承認を取らない限りカネは使えない訳ですから、これはもうどうしようもない。
F:進退窮まった状態ですね。どのようにして打開したのですか?
貴:いやそれが神風って本当に吹くもので、ガタガタとモメている間にその役員が急遽フォードへの帰任が決まって、サッサと本国へ帰っちゃった。
F:あらら。本社人事でいきなり問題解決ですか。
貴:いや、もちろんそうはいかない(笑)。
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