教育委員会を廃した「保護者立校」を、いかに効率的に運営しうるか。
予算だけを割り振って、あとは野放し、というわけにはいかない。そうすると、素人である保護者によってガバナンスされる学校の多くが、途方に暮れるかもしれない。そのような懸念は常にある。
理事会の機能をきちんとするための「研修」については、NZSTA(ニュージーランド学校理事会連合会)のヘルプデスクの電話相談や顔を合わせての研修会などによって、かなりのところ達成されているのを見た(第3回 保護者だけの素人ガバナンスは「セーフティネット」あってこそ)。しかし、ガバナンスの形がうまく整ったとしても、実際に学校経営がうまくいくかどうかは別の話だ。当人たちがうまくいっていると思っていても、実は重大な落とし穴にはまっているかもしれない。
シロウトがガバナンスするなら、ちょっと“ゆるい”基準が必要
そこで、各学校理事会は、教育省との契約である「学校憲章」の中に、自己評価の計画を含めなければならない。なにはともあれ、各学校理事会は、かなり広い範囲での自由を享受しており、そんな中、教育省が定める「全国学校経営指針」(NAG;National Administration Standard)の基準を満たさなければならない、とされる。この中にはこれまで、理事会の仕事として紹介してきた様々な要素が盛りこまれており、理事会の学校経営の指針となる。
具体的な柱としては、
| ・ | ニュージーランド・カリキュラムに従って、バランスのよいカリキュラムを提供し、生徒の学習成果をあげること。 |
| ・ | 雇用者として、政府が策定する枠組みの中で、人事・雇用方針を開発・実施し、また、「国家組織法」の定めるところによる、良い雇用者であること。 |
| ・ | 財政的な部分において、国と合意した優先事項に応じた予算配分をし、支出の監督、管理の責任を負って報告書を作成する。さらに、校舎や設備の補修保全計画を実行していくこと。 |
| ・ | 「全国学校経営指針」をどのように実行しているか文書報告すること。さらに、自己評価を継続的に行うこと。 |

もっともこれだって、かなりアバウトな指針だ。たとえば、言及されているニュージーランド・カリキュラムだが、50ページに満たない小冊子にすぎない(そのうち10ページは、美麗な写真やただの余白なので実質40ページ!)。
ページをひもとくと、冒頭の10ページ(写真や空白ページ除く)はひたすら、ビジョンやら概説やらに終始している。ちなみに、「私たちが若者に望むこと」と副題がついたビジョンのページには、以下のような望ましい「若者像」が描かれている。
| ・ | 創造的で、情熱を持ち、努力を惜しまない若者。 |
| ・ | 新しい知識や技術によって提供される機会を活用し、わたしたちの国の社会、文化、経済、が未来にわたって持続的であるように保証してくれる若者。 |
| ・ | ワタインギ条約に基づいてマオリと白人がこの国におけるパートナーであり、すべての文化に価値を見いだせる社会を作り出す若者。 |
| ・ | 満足できる生き方のために役立つ、価値観、知識、能力を、学生時代を通じて継続的に深める若者。 |
| ・ | 自信を持ち、コミュニケーション能力にたけ、様々なことに積極的にかかわり、生涯学習者となる若者。 |
「指導要領」や「検定教科書」がない
カリキュラムと聞いて想像する、実際の教科の話が始まるのは、冊子のなかばあたりからだ。ページ数の少なさからも分かる通り、ぎゅっと凝縮されたエッセンスのみ。主要教科のひとつ「算数と統計」についての説明はたった1ページで、「数と算術」「図形と計測」「統計」の3つの重点学習領域について概説している。冊子に織り込まれた別表でさらに3ページ相当を割き、初等教育の間に達成すべき項目をレベル1からレベル8までに分けて述べているが、これも概説の域を出ない。
たとえば、レベル2の「図形と計測」は、「長さ、大きさ、嵩(かさ)、重さ、角度、温度、時間を計測できるようになる」とのみ記されている。レベル7の「統計」の中にある「確率」の単元は、「割合、パーセンテージ、比を使って、確率を計算する」とある。たったそれだけだ。
ちなみに、ここで言う「レベル」は、だいたい各学年に相当すると考えてよいが、実際は学習すべきタイミングが幅を持って設定してあり、同じ内容を4年生のうちに教えても、5年生になってから教えてもよい。範囲の間であれば、学校の(極端な場合クラスの)裁量に任されている。
そして、ニュージーランドには指導要領などなく、また、検定教科書もない。
そこまで緩やかな規制であるため、絶えざる自己評価を命じている部分も納得できる。
ちなみに、セントマーチンズ小学校で行われている評価のやり方は、なかなか合理的・効率的なものだった。
全国学校経営指針に則って決められた自校評価の細かい項目を、各学期に割り振って順次レビューしていく。たとえば、「学校におけるハラスメント」「生徒の進歩を評価し、報告するシステム」「個人情報の取り扱い」「宿題」「インターネットのセキュリティ」「プールの安全性」「喫煙、ドラッグ、アルコールの排除」といった項目について評価してもらう質問票を教職員と理事会メンバーに配り、集計する。そして、その結果をファイルしていく。特に、評価が悪かった分野については、改善のための戦略が練られることになる。
こういったことを手作業ではなく、コンピュータを使いインターネット上で集計できる教育業務支援サービスに加入している(実はこのサービスの導入も、ぼくが滞在中に「目の前」で決定され、実現したことのひとつだ)。
学習の達成度についても、ニュージーランド国内での相対的な学力が分かるテストで、学校としての(クラスとしての)達成度を測定した上で、常に授業法の改善などをはかることになっている。
というわけで、単なる「丸投げ」とも「野放し」ともいえない、ゆるやかな規制がかけられ、学校理事会がその要求に応じる仕組みが実はできているのだった。
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作家。1964年生まれ。11歳の息子、9歳の娘とともに、2009年7月から2010年1月までニュージーランドに長期滞在。著書に『







