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大切なことは、何なのかね? 「正確さ」ではないだろう? マティスは問いかける

『画家のノート』アンリ・マティス著

2010年3月23日(火)

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20世紀を代表する画家アンリ・マティス

20世紀を代表する画家をこんなふうに言ってはいけないけれど、アンリ・マティス(1869年生-1954年没)は、いつも、なんともいいかげんなタッチで、しかし、なんと形容したらいいのかわからないくらい、微妙で明るく優しく親密な画面を作る。

こんなふうに絵が描けたら、どんなに気持ちいいだろう!

画面の前に立つと、きっと誰もが美術理論や歴史的価値など忘れて、ただ、こういう絵が描ける人になれたならなあと憧れる。そういう画家なのだ、アンリ・マティスとは。

そのマティスの言葉を、インタビューや取材記事、手紙から集めた、素晴らしい本がある。『画家のノート』だ。
マティスが自分の芸術観や制作方法を語っているのだから、美術に関心がある人(たとえばぼく)にはどのページだって興味深い。

では、美術に関心がない人には?
それでも十分に読む価値はある。

優れた芸術家やスポーツ選手などの言葉には、ジャンルを超えて人間の営み全般に通じる普遍性があったりする。深くあるいは高く追求した人だけが知ることのできる真実が含まれているのだ。

『画家のノート』で語られるマティスの言葉もそうだ。絵の描き方を超えて、人生の考え方や生き方にまで通じている。

そう思ったのは、ぼくが図書館から借りて『画家のノート』を読んだ20歳ごろ。マティスの絵画の説明というより、ぼくらが生きている世界やぼくらの生、その生き方や考え方について記された哲学書のようなつもりで、ぼくはページを繰っていたのだった。

世界との距離をなくしたい

宇宙のまっただ中、ぼくは頑丈な宇宙服に包まれて、着心地の悪さにいら立ちながら、ひたすら何億光年の彼方へと流されていく。20歳のころは、そんな気分で過ごしていた。

ぼくは、自分の生、自分の世界にピッタリとハマれない。出来の悪い既製服のように、それは、ぼく自身とはズレていて、緩すぎたりきつすぎたりしている。

何なのだろう、いつも鬱陶しくまとわりついてくるというのに、こちらから手を伸ばせば、たちまち遠く、無限に後ずさっていくこの世界とは。

ぼくが日々出会うどんな事件も表現も、あるいは自分が口にする言葉さえ、ぼくとズレている。

白々しい? 世界の運動に乗れない? そんな言葉だって、白々しくて乗れやしない。
切実なものなど、ぼくには何ひとつないのだと思った。

樹というのは、これもそれが私に及ぼす効果の総体なのです。私が観ている樹を素描することが問題なのではありません。単に樹としてだけではなく、ほかのあらゆる種類の感情と関連して私の精神に働きかけてくる対象を私は目の前にしているわけです。……樹を正確に模写するとか、慣用語法で葉を一枚一枚素描したりすることで私は自分の感動を解放するわけにはゆかないでしょう……むしろ、自分を樹と一体化させてはじめてできるのです。私は樹と似ている物を創造せねばならない。

ここでマティスは絵の描き方を話している。
ぼくは、もっと広く、生き方や感じ方の話として聞く。

ぼくと世界との距離をなくしたい。
ぼくとぼくの生を密着させて、切実さを感じたい。
手触りを、かけがえのなさを、このぼくの生にもたらしたい。
どうすればいいのだろう?

「大事なのは感動すること、そして、その感動に精一杯誠実に向き合い、どこまでも率直であること。それ以外に秘訣などないよ」
そうマティスは教えてくれていると思った。

感動とそれに対する率直な態度か……。
それならまず、自分が口にする言葉は、必ずぼくの言葉にしようと思った。
その場に無言で要求される言葉、そんなものを口にして、何かを言った気にはなるまい。

何の実感もないことを、知識だけで語るのはやめよう。
もっともらしい言葉を口にしようとする衝動に負けてはいけない。
反対に、陳腐でもいいんだ、本気なら。
素朴でも馬鹿みたいでも、距離のない、自分に密着した言葉なら。
そんな身を切るような思いで口にする言葉を使うんだ。

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