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罰としての労働が産んだ「富」という副産物

「働く」その1

2010年4月8日(木)

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 ハンナ・アレントが指摘しているように[1]、古代のギリシア語やラテン語にも、現代の西洋の言葉にも、働くことには二つの明確に分かれた語群が存在する。ひとつはラテン語でラボール(労苦)という語に代表される言葉であり、これは肉体的につらい労働を意味する。もう一つはラテン語でオプス(仕事、作品)に代表される言葉であり、これは労働そのもののつらさではなく、その成果や産物に焦点をあてた言葉である。

労苦と仕事

 片方は身体的な労働のつらさに目を向け、他方はその仕事の成果に注目する。「労働」が否定的な意味をおび、「仕事」が肯定的な意味をおびるのはすぐに理解できることだろう。「労働」に関連した語群は、とくに食物の生産と加工にかかわる営みを中心とする。畑を耕し、穀物を収穫し、それを料理して食事の用意をする営みである。これらは人間が身体的な必要性をみたすために、不可欠なものである。それなのに、その労働にたいするまなざしはきわめて否定的である。

 それにたいして、「仕事」の語群はそれがもたらした成果に注目する。職人の仕事は、さまざまな作品をもたらす。耕作するための鍬、住まうための家、腰掛けるための椅子、そのどれもが貴重なものであり、しかも食事のように、消費した後に跡形もなく姿を消してしまうことがない。作品には、それを制作した人の技能が表現され、美しい椅子、座り心地の良い椅子は、ただ座れるだけの椅子とは異なる高い価値が認められる。それは制作者の誇りの表現でもあるのだ。

労働の肯定性と否定性

 過酷で、身体をすり減らすだけの否定的な労働と、制作者の技術と能力の表現である作品を作りだす肯定的な仕事のこの対立は、西洋の労働観の根底にあるものだ。ただしおもしろいことに、この二つの語群そのものにうちに、こうした肯定性と否定性の二重性が存在する。労働は厭わしいものであるが、身体を使って労働することのうちには、ある肯定的な要素も含まれる。たとえば自然と一体になって働く農民の仕事には、ポリスが成立する以前のギリシアでも高く評価されていた。

 ヘシオドスにとっては、農耕という営みは、つらい労苦をともなうものではあったが、現代的な観点からみたつらい「労働」などというものではなかった。神に犠牲をささげるために必要な穀物を作りだす貴い営みであり、宗教的な行為ですらあったのである。収穫は神の「聖なる賜物」[2]あり、「デーメーテールの聖なる穀物が、健やかに育ち、重き穂を垂らしたまえ」[3]と祈りながら行う耕作は、神と一体となる儀式ですらあったのである。

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「罰としての労働が産んだ「富」という副産物」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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