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ファンタジーの「子ども」では夢は見られない

2010年4月9日(金)

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「子供」は、面倒くさい。
 気を使わなければならないから。
 転ばせないように、手加減をしてマッチアップしないと、怪我をさせてしまう。
 そう。子供たち自身と、その親と、彼らの権利を代表する人々や機関のすべてに、万事遺漏無く気を配ってかからないと、必ず面倒なことになる。
 だから、子供について原稿を書く時、私は、ちょっと神経質になる。

 たとえば、ヒグマは、通常の状態であれば、人間にとって致命的に危険な生き物ではない。
 が、子供を連れた母熊は、非常に物騒な動物になる。
 人間の世界でも事情はそんなに変わらない。子供を盾に何かを言ってくる人々は、正直なコラムニストにとっては、天敵だ。

「子供にどう説明したら良いのでしょうか?」
「子供たちの夢を壊さぬように、大人である私たちは、当然の責任として……」
 と、この人たちは、クレームをつけるに当たって、本人の名においてそれをせずに、子供の弱さやいたいけさをタマよけにして、その後ろでモノを言う。
 彼らは、「子供たちの夢」という夢を見ている。しかも、その夢は起きても醒めない。とすれば、夢の中の人間には何を言っても勝てる道理はない。

 子供は、原稿を書く人間にとって、なによりもまず、表記の問題として立ち上がってくる。
 このことに、私は、過去二十年来、折にふれて、わずらわされてきた。

 たとえば、どこかのメディアに原稿を書く。
 私は、ふだん、「子供」と、この言葉を、二文字の漢字で表記している。
 と、媒体によっては、ゲラの段階で「子ども」という書き方に訂正してくるところがある。
「ん?」
 最初のうちしばらく、私は、意味がわからなかった。
 で、個人的に「漢字」と「かな」の混じった単語表記が気持ち悪いので、再度「子供」に直してゲラを戻したりしていた。
 と、先方から電話がかかってくる。

「あのぉ、コドモの表記なんですが、「ども」をひらがなにする書き方はお嫌いでしょうか?」
「まあ、あんまり好きじゃないですが。そちらがどうしてもということなら、別にこだわりませんよ」
「……でしたら、恐縮ですが、ここは当方の表記基準に沿って、『子ども』とさせていただきます。どうも申し訳ありません」
「いや、かまいませんよ」

 こういうことが幾度か続いて、何回目かのある時、私は、説明を求めた。
「お差し支えなかったら、「供」をひらがなに開く理由を教えていただけますか?」
 と。この質問に対して先方の語ったところはおおむねこんな感じだった。

1. 子供の「供」の字には、「お供」という意味合いがあって、結果「コドモ」を「子供」と表記すると、「大人に付き従う者」であるというニュアンスが生じる。
2. その他、「供」を、神に捧げる「供え物」と見る見方もある。

「いや、私がこう思っているということではありません。読者の一部に、いまご説明したみたいな受け止め方をされる人々がいる、ということです。とにかく、慣例として、『コドモ』は『子ども』にしておいた方が面倒が少ないということです」
 なるほど。

 全面的に納得したわけではなかったが、私は、先方の説明を受けいれることにした。モメるのも面倒だし、どっちにしても大差は無いと思ったからだ。

 新聞社や雑誌と付き合っていて、この種の問題が持ち上がることはそんなに珍しくない。
 そして、ほとんどの場合、私は、先方の表記基準をそのまま了承することにしている。用語や表記についてこだわり出すときりがないし、実際のところ、文句を言ってどうなるものでもないからだ。

 抵抗を感じたのは、ある雑誌で、「トルシエ」を「トゥルシエ」と書かねばならなかった時ぐらいだろうか。
「トゥルシエ」と言ってしまうと、トルシエと私の友情(いや、実際には知り合いでも何でもないのだけどね)にヒビがはいるような気がしたからだ。

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「ファンタジーの「子ども」では夢は見られない」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官