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73. 「悪い表現」をめぐる4つの態度。

~4月病文学入門2010(3)

  • 千野 帽子

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2010年4月21日(水)

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 日直のボウシータです。4月病文学入門の3回目、文学その他の表現が道義的に「いい」とか「悪い」とかいうときに、人はどういう基準で話をしているのだろう、という話の続きです。

 一例として挙げると、第66回第67回に取り上げた太宰治など、「人としてダメ」の典型だ。

 妻を含む周囲の女たちにつぎつぎと甘え、その全員を裏切り、あちこちに子どもまで作り、ヘタレの癖して大言壮語、親のすねをかじり税金を払わず、子分にいい顔したくて借金、心中・自殺を何度も図り、薬に頼り酒に溺れ、文字どおり人間失格。

 作品にもそういうネタがいっぱい出てくる。自分の浮気・嘘・借金・依存症・自殺未遂・中二病をひけらかすような表現もある。

 ということで、もっとも素朴な反応としては、(a)「道徳的に逸脱した言動や思考をひけらかす作品は、批判されるべき悪い作品である」となりますね。これを「道徳主義」としておきます。

 では彼の書いた文学作品が「悪い」のかというと、どうしてどうして、じつに多くの人の心の支えとなっているではないか。……という理屈がある。つまり、(b)「文学者・文学作品のなかの悪い部分とはべつに、作品の価値がある」という考えかただ。これを仮に「価値分離主義」と呼ぶことにする。

 あるいは、もっと進んで(c)「文学者・文学作品のなかの悪い部分は既存の秩序への反抗である、人間性の解放である、ゆえに、作品の価値がある」という考えかたもある。これを「逸脱主義」としよう。

 これがさらに進むと、(d)「悪い部分(既存の秩序への反抗)のない文学作品には価値がない」という考えかたになる。「逸脱至上主義」と名づけておく。

 いずれも不細工な命名で申しわけない。まとめると、こういうふうになる。

(a)道徳主義
規範からの逸脱をひけらかす表現は、批判されるべき悪い表現である。
(b)価値分離主義
規範からの逸脱と、表現の価値とはべつものである。
(c)逸脱主義
表現は、規範からの逸脱ゆえに価値を持つことがある。
(d)逸脱至上主義
規範から逸脱しない表現は無価値である。

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