• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

パワースポットめぐりでパワーを奪われていないだろうか?

2010年5月7日(金)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 「パワースポット」という言葉を最初に知ったのは、今年のはじめだった。
 正確に言えば、1月の下旬。さるお笑いタレントと女性歌手の交際報道を通じて、だ。

 件の二人は、アリゾナ州にあるセドナというパワースポットを訪れたのだという。
 ワイドショーが伝えていたところによれば、若い男女が連れ立ってパワースポット行くということは、その二人が真摯な愛を育みつつあることを示唆するエピソードなのだそうで、つまり歌姫と芸人は「デキ」ているらしいのだ。

 なるほどね。
 私は、そのニュースを聞き流した。
 プロモーションくさいと思ったからだ。

 「モテ男」と「歌姫」の「婚前旅行」。「口説きの達人」による真摯な「交際宣言」。アタマから終わりまで常套句だらけ。文体が手垢でベカベカに光っている。読んでいて気持ちが悪くなる。

 であるから、記事中に頻出していた「パワースポット」という言葉にも、あまり良い印象を抱かなかった。

 「婚活中」の「アラサー女性」の間で「話題沸騰」だとかいった書き方からして、もうダメだ。先を読む気になれない。折り込み広告だってもう少し上品な文体で書かれていると思う。

 交際報道は、既に沈静化している。
 続いているのかどうかは知らない。
 っていうか、知りたくもない。

 メディアが女性歌手を「歌姫」と呼び、お笑いタレントを「芸人」と称するのは、その呼称の対象となっている人々が、多少とも特別な存在である旨を強調するためのお約束みたいなものだ。

 歌姫は、そこいらへんの女性歌手とは違う。
 芸人も、ただのお笑いタレントとは別次元。そういう意味だ。
 いずれにしても、彼らは、特別扱いにされる。

 「歌姫」の不行跡は、「うた」への没入の証として、むしろ美化される。マネージャーやファンに対して尊大にふるまうことも、スケジュールをしばしばキャンセルすることも、PVの制作陣に些細なダメ出しを繰り返すことも、酒の上の不始末も、楽屋での大名行列も、すべては、「姫」ならではのアーティスティックなこだわりのあらわれとして肯定的に評価される。

 芸人の逸脱も同様。「芸」の肥やしとして、通常人のスキャンダルとは別枠で処理される。後輩芸人に対する「無茶ぶり」や女性関係の噂も、芸に生きる人間の勲章として容認され、過去の「やんちゃ」や時効となったあれこれについても、「男の向こう傷」ぐらいな神話として、おおいに美化称揚される。さすがは兄さん。シビれるわぁてな調子で。

 つまり、わが国の芸能界では、ある時期から、一定の知名度を得たセレブリティーに対しては、一段階ユルい倫理規定が適用されるようになったのである。彼らの私生活は、トーク番組における最もおいしい楽屋落ちとして、最大限に尊重される。そういうことになっているのだ。

 芸能マスコミはセレブリティーを商材にしている。

 彼らは、「知名度」を「オーラ」(←本来の語義は「曰く言い難い存在感」だが、実質的には、「取り巻きの土下座によってもたらされる周囲への威圧」と解されるべきもの。いずれにしても知名度および権力の一作用に過ぎない)と呼び変えることで、自分たちの事業を正当化している。逆に言えば、知名度それ自体が「ニュースバリュー」と認定されている限りにおいて、芸能マスコミの影響力は不滅なのだ。なんとなれば、知名度を生産しているのは、有名人自身ではなくて、メディアだからだ。有名人は、メディアから供給される名声無しには生きていけない。金魚鉢の中の金魚と同じ。そもそも水がなければ泳ぐことができない。

 とはいえ、知名度がニュースバリューとイコールで、認知度がそのままオーラであるみたいな自給自足の電波紙芝居に、視聴者たるわれわれは、ずいぶん前からうんざりしている。

「……で?」

 と、だから、芸人と歌姫の交際についての世間の関心は、報道した側の人々の期待とは裏腹に、至極冷淡だった。

 かくして、業界側が仕掛けたアドバルーンは三日でしぼんだ。

 あたりまえだ。
 交際が事実であったのか否かを問わず、あるいは続いているのか途絶えたのかにかかわらず、いずれの場合であれ、こんなニュースには、そもそも需要がなかったからだ。

コメント41

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

一覧

「パワースポットめぐりでパワーを奪われていないだろうか?」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

企業や官公庁の幹部のメールボックスの内容が、まるごと数十万〜数百万円で売られている事例もある。

名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官