理系オンチを自認する私がなぜ生態数理学という、いかにも難しそうな学問を研究している人の本を手に取ったのか。それは、以前この著者を『爆笑問題のニッポンの教養』というテレビ番組で見て、強く印象に残っていたからだ。放映は2007年の11月だから、もう2年以上も前の話だ。
番組で、著者は研究対象の「素数ゼミ」について身ぶり手ぶりを交え、熱く前のめりに語っていた。太田光に「子供みたい」と突っ込まれていたが、まさに遊びに熱中している少年のような無邪気さをふりまいていた。
素数ゼミ(正式には周期ゼミ)とは北米にのみ生息するセミで、土の中で13年もしくは17年もの長い年月を過ごし、成虫になる。定期的に何十億匹というセミが大量発生し、周囲を騒音の渦に巻き込む。その謎を「素数」をキーに世界で初めて解いたのが著者である。
素数セミの祖先はもともと、毎年発生するごくありきたりのセミだった。だが、新生代の氷河期に入り、成虫になるまでの期間が通常なら7年のところ、10年、15年と延びていく。だが、過酷な環境で長い幼虫期間を生き延びて羽化したとしても、交尾相手が少なければ絶滅してしまう。そこで、出会いを確実にするために周期を持ったセミが突然変異で出現し、瞬く間に広まった。
かつては12〜15年の周期のセミがいたという。だが、周期の違うセミで交雑が進むと、周期に乱れが生じてくる。周期にバラつきが出れば、オスとメスの出会いの機会も減る。そこで他の周期を持つ種と交雑する機会が少ない、13年、17年周期のセミが結果的に個体数を維持し、絶滅を免れたというわけだ。
そんなセミのサバイバル術を見事に解明してみせた著者が、その思考を生物全般にまで広げてみせたのが本書である。約40億年もの時を経て、生物はいかに生き残り、いかに滅んでいったのか。人間という生き物も含め、「進化とは何か」を問いかける壮大な一冊だ。
適応能力が強すぎると環境変動に弱い
著者は、生存or絶滅の分かれ目は「環境の変化という不確定要素にいかに順応できるか否か」という「環境変動説」を唱える。
〈気の遠くなるような長い年月、生命(遺伝子)というバトンを渡し続けている生物は、決して「強い者」ではないという事実である。今、この惑星に生き残っているのは、「環境の変化に対応して生き残ってきた者たちだった。(中略)そして、「いかに環境の変化に対応するか」でもっとも有効な方法のひとつが、「他者と共存すること」なのである〉
現代の進化論=総合学説では、「強い者=適応度の高い者(ある環境に最適化した者)」が生き残る、とされている。だが著者は、長期的に種が存続していくためには「強さ」よりも、どんな環境にも「そこそこ」適応できることが大切だと主張する。
本書の説明をもとに私なりに噛み砕いてみると、x、y、zという3つの遺伝子型があるとして、寒さに強い順(適応能力の高い順)がx、y、zだと仮定する。逆に暑さに強いのはz、y、xの順とする。
極寒の気候が続けば、適者生存の総合学説からいって勝ち残るのはxだが、どこかで環境が一変し気温が異常に上がったとすると、今度はzが勝つ。つまり、極寒から酷暑へと環境が変化すると、生き残る遺伝子型はxからzに変化することになる。
だが、毎日の天気を見れば分かるように、現実には暑い日もあれば、寒い日もある。そうやって寒暖が交互にやってくる場合には、寒さに強く暑さに弱いx、もしくは寒さに弱く暑さに強いzは、絶滅する可能性が大きい。長期的な視野に立てば、暑さにも寒さにもそこそこ強いyが最終的には生き残る。
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