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労働は人間の本質ではなく、堕落である

「働く」その8

2010年6月3日(木)

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ルソーの自然状態と文明の堕落

 生産労働がもっとも価値の高い人間の営みであるということは、このように近代の資本主義の社会のうちに埋め込まれた価値観なのである。しかしそのような労働観とは異なる視点はないのだろうか。そう考えてみると、近代の初頭に社会がどのようにして形成されるかを考察したルソーは、まったく異なる視点を提供している。

 ルソーは、人間は自然な状態では、ただ自然の豊かな恵みを享受するだけで、自然を「加工」するようなことはしなかったと想定している。この自然な人間という生き物は、「樫の木の下で満腹になって、最初にみつけた小川で渇きを満たし、食事[のための木の実]を与えてくれた樫の木の下に寝床をみつける」[1]に違いないというのである。豊かな森を歩むたびに「食料の宝庫と隠れ家をみいだす」[2]のである。

 社会が形成されたとしても、人々が自然とのなごやかにつきあう限り、「一人でできる仕事や、数人が手をあわせるだけで可能な技術に専念しているかぎり、人々はその本性によって可能な範囲で、自由で、健康で、善良で、幸福に暮らしていた。そしてそれぞれが独立しながら、他人と交際する楽しさを享受していたのだった」[3]

 しかしこの自由で平和な状態は長続きしない。「一人の人間が他人の援助を必要とするようになった瞬間から、また一人で二人分の食料を確保しておくのは有益であることに気づいた瞬間から、平等は姿を消し、私有財産が導入され、労働が必要になった。そして広大な森はのどかな原野へと姿を変えたが、この原野を人々が汗して潤すことが必要となった。そしてそこにやがて隷属と窮乏が芽生え、作物とともに成長していくようになる」[4]。農業と冶金術という自然を加工する技術がこうして誕生し、「人間を文明化し、人類を堕落させた」[5]のである。ルソーにとって、労働と技術は人間の本質であるよりもむしろ、人間の堕落なのである。

 ルソーはこのようにして人間が文明化していくことでいかに堕落するかを、段階を追って考察する。まず人々の間での他人の評価が行われるようになる。「もっとも強い者、もっとも巧みな者、もっとも雄弁な者がもっとも尊敬されるようになる。これが不平等が発生するための、そして同時に悪徳が生まれるための最初の一歩となったのである」[6]

 次に私有財産が生まれ、貧富の差が発生し、貧しい者は富める者のために働き、自分の作物を自分のものとすることができなくなる。やがては「かつては自由で独立していた人間が、いまや多数の多様な欲求のために、いわば自然全体に、そしてとくに他人に従属するようになった」[7]のである。

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「労働は人間の本質ではなく、堕落である」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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