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失業者マックス・ヴェーバー、負け戦から「天職」をつかむ

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』マックス・ヴェーバー著

2010年6月22日(火)

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「ヴェーバー」(Weber)は、英語式の読み方をして「ウェーバー」と書かれることもあります。独語ではこの読みとなります。出典元の書籍の表記にも従い、本稿では「ヴェーバー」といたします(編集部)

マックス・ヴェーバー(1864年生―1920年没)は優秀だった。
25歳で法学博士となり、30歳で大学教授だ。
晩年に行った講演では「教授就任は幸運だった」と謙遜しているけれど、運であれ実力であれ、彼の人生が良いスタートを切ったことは間違いない。風は順風、広げた帆いっぱいに受けとめて、滑るように出航していったのである。

ところが港を出た直後、不意に横波を受けて、船はたちまち転覆してしまう。ヴェーバーは神経を病んでしまったのだ。そのため33歳で辞表を提出、その後、54歳になるまで教壇には戻れなかった。

いったいヴェーバーの神経を何がそんなに痛めつけたのだろう。

失業者ヴェーバー

晩年の講演では、大学の先生の仕事は「研究者」と学生を指導する「教員」のふたつだと語り、「研究者としてどれほど優れていても教員の務めをきちんと果たせなければやっていけない」と強調している。すると、若いヴェーバーは「教員」の部分で何らかの困難に遭遇して、それが病のきっかけとなったのだろうか。

病気の原因が何であれ、とにかくヴェーバーは失業者となった。
もちろんいろいろな仕事をするけれど、彼が自分でコレと定めた仕事、一生を捧げると心に決めていた「天職」は失ってしまったのである。

「天職」という理念に苦しむ

「天職」と書いた。
日本語で「天職」と言えば、それは「その人の資質に最も適した職業」のことだ。
だが、ヴェーバーに関連して使われる「天職(Beruf)」という言葉は、(彼が生きていた社会の中では)日本語の「天職」以上に重い意味があった。
収入源の仕事というばかりでなく、さらに義務や使命のような、厳しく神聖なニュアンスまで含まれていたのだ。

だから、失業者ヴェーバーの心を苦しめたのは、神経疾患だけではなかった。
「オレは『天職』を持たない男、つまり、やるべきことをやらない失格者だ」。
きっと自分で自分を蔑んだ。
さらに周囲の目、世間の評判が、無言の圧力となって重くのしかかる。

あれ、なぜオレはこんなに引け目を感じるのだ?

みんなが同じことを考えている。
そして、自分自身も知らないうちに同調している。

けれどもある日、「よくよく考えてみるとずいぶんおかしなことだ」と気づく。
そういう経験は、ぼくらにもよくある。

ヴェーバーもこのとき、ふと「自分が引け目を感じていること」のおかしさに気づいただろう。

オレは病気で職を失った。これは残念だが仕方のないこと。不可抗力と言ってもいい。それなのに、なぜオレはこんなに引け目を感じているんだ? 現実的に「困る」という以上に、まるで人間として犯してはならない罪に手を染めているような気分だ。
反対に、たとえ動機はカネだけであっても、あるいは明らかに無価値な仕事であっても、それが社会的に組織された職業でさえあれば、「天職をまっとうしている」「人間として尊い」かのように讃えられている。
これは少し「奇妙」ではないか。

「エートス」とは、風のようなもの

ヴェーバーは、自分が属し、その中で生きている社会、つまり資本主義社会のエートスについて考え始める。

「エートス」とは何か。
倫理とも、気質とも言われる。
ぼくは、「校風」「社風」「家風」などと言うときの「風(ふう)」にあたるものだ、と言ってみたい気もする。
集団の「風(ふう)」が、まさに風(かぜ)のように、その集団に属するひとりひとりの思考と行動に方向を与え、さらに、その方向へ進むエネルギーを与えているのだ。

天職を通じて、合理的かつ計画的に事業と生活を営むよう人々に働きかける。それが、ヴェーバーの考察の対象、資本主義社会の「エートス」だ。

ヴェーバーはこの「資本主義社会のエートス」についての考察の成果を、1904年から翌5年にかけて発表する。それが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』だ。
彼は、このとき40歳。
退職から7年が経過していた。

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