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欧州に再来した「格付け」という魔女

『トリプルA 小説 格付会社』著者の黒木亮氏が語る(前編)

2010年6月22日(火)

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 ギリシャ国債の格下げに端を発した欧州の金融危機は、緊急融資制度の発表によりいったんは沈静化するかにみえたものの、6月に入ると今度はハンガリーの財政危機が露呈し、再び欧州経済の先行きを危ぶむ声が高まっている。背景には、通貨ユーロが抱える構造的な矛盾とともに、各国政府の資金調達を左右する「格付け」の問題が横たわっている。

 元国際金融マンで、長年ロンドンを拠点に金融・ビジネス小説の執筆活動を続け、格付会社の興亡を描いた最新作『トリプルA 小説 格付会社』をリリースした黒木亮氏が、一連の欧州金融危機の展開と予想されるシナリオを語った。

 今回のギリシャの問題の直接の原因は、国債の格付下げによって市場から資金が調達できなくなり、債務を返済できない状況に追い込まれたことだ。もちろん、その前提として、財政赤字や公的債務が過大に膨らんだという事情があるのだが、それをEUとIMF(国際通貨基金)からの支援で乗り越えようとしていた矢先に、S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)がギリシャ国債の格付けを「投資適格」のトリプルBから「投機的等級」であるダブルBに格下げしたために、危機のトリガー(引き金)が引かれた。これにより、ギリシャが自力で資金調達できる望みが途絶え、欧州全体を巻き込む金融危機に発展した。

外国人投資家は容赦なく資金を引き上げる

 ギリシャ国債は全体の70%超を民間の外国人投資家(金融機関、機関投資家等)が保有している。外国人投資家から資金を調達していると、ひとたびカントリー・リスク上の懸念が生じると、有無をいわさずに資金を引き上げられてしまう怖さがある。

 私自身も金融マン時代の1994年に、格付けが投機的等級に下げられたために金融危機に陥ったトルコに対し、1年半にわたって民間市場からの資金供給が完全に途絶えたのを目の当たりにしたことがある。当時のトルコは世界銀行や先進各国の輸出信用付の融資が半分くらいあったので、それらをロールオーバー(借り換え)してしのいだが、民間からの借り入れに頼っているギリシャはそういうわけにはいかない。だから問題が深刻になった。

黒木 亮氏(写真:稲垣 純也)

 ただし、ギリシャ危機に関していえば、すでに総額1100億ユーロ(約13兆円)規模のギリシャ支援策と、最大7500億ユーロ(約89兆円)という緊急融資制度が打ち出されたため、当面の危機は回避された。

 市場では、ギリシャ同様に財政赤字が膨らんでいるスペインやポルトガルへも危機が波及するのではといった声がある。しかし、現在のスペイン国債の格付けはムーディーズがトリプルAでS&PがダブルAだ。ダブルAを付与されている発行体が債務のロールオーバーができない事態はまず考えられない。また、ポルトガル国債はムーディーズがダブルA、S&PがシングルAで、デフォルトのリスクはかなり低い。また、ポルトガルの公的債務はギリシャの半分以下なので、たとえ資金繰りが本当に悪化したとしても、7500億ユーロの緊急融資で十分に支援できるはずだ。「リーマン・ショック」のトラウマがある投資家が神経質なため、ギリシャとハンガリーを除いては(いくらか問題はあるにしても)不安視されてしまっているというのが現状だ。

 今回、危機の原因となっているのは、昔から対外債務が多い「問題児」だ。私が銀行マンとしてロンドンに赴任したのは1988年だが、当時からギリシャやハンガリーは重債務国で、返済能力が不安視されていた。それが通貨統合やEUに加盟したことでEUのセーフティ・ネットが存在すると見なされて信用力が高まり、その結果、金を借りすぎた。今、これらの国々の通貨や国債が売られ、外国の投資家がそれを不安視し、公的債務を借り換えできない事態になっている。S&Pによるハンガリーの格付けはトリプルBマイナスという投資適格の最下限に張り付いているので、あと1ノッチ下がったらアウトである。こういう意味では、スペインよりもむしろ昔から債務が多く、デリバティブで財政赤字を減らした前科もあるイタリアのほうが心配だ。

■ ユーロ圏主要諸国とハンガリーの信用格付け

  ムーディーズ S&P GDP
アイルランド Aa1 AA(ネガティブ) 20兆円
イタリア Aa2 A+(安定的) 169兆円
オーストリア Aaa AAA(安定的) 30兆円
オランダ Aaa AAA(安定的) 62兆円
キプロス Aa3 A+(安定的) 1.8兆円
ギリシャ ↓A3 BB+(ネガティブ) 25兆円
スペイン Aaa AA(ネガティブ) 116兆円
スロベニア Aa2 AA(安定的) 3.7兆円
ドイツ Aaa AAA(安定的) 267兆円
フィンランド Aaa AAA(安定的) 20兆円
フランス Aaa AAA(安定的) 208兆円
ベルギー Aa1 AA+(安定的) 36兆円
ポルトガル ↓Aa2 A-(ネガティブ) 18兆円
ハンガリー Baa1 BBB-(安定的) 11兆円

※ムーディーズ・インベスターズ・サービスとスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の自国通貨建て長期国債に対する2010年6月9日現在の格付け。 GDPは名目ベースの概算(1ユーロ=110円換算)

矛盾を抱えるユーロは常にターゲットにされる

 メディアのなかには「ユーロ圏が崩壊する」といった極端な論調も見られるが、欧州各国がそんなに簡単にユーロという統一通貨システムをあきらめるはずはない。

 欧州各国が個別の国としてではなくEUというブロックになって米国やアジア諸国と交渉できるメリットは計り知れない。この強力な交渉力を手放し、政治的に「二等国」になるようなことは何としてでも回避するよう、ぎりぎりまで手を打つはずだ。

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「欧州に再来した「格付け」という魔女」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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