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「ストファイ(証券化)」が格付会社を狂わせた

『トリプルA 小説 格付会社』著者の黒木亮氏が語る(後編)

2010年6月29日(火)

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 欧米金融当局が、サブプライム危機の“戦犯"と目される格付会社に対して規制を課すべく動き出した。大手3社による寡占や利益相反といった問題点をいかに改善し、透明性の高い格付制度を実現するためには、何が必要なのか――。元国際金融マンで、長年ロンドンを拠点に金融・ビジネス小説の執筆活動を続け、格付会社の興亡を描いた最新作『トリプルA 小説 格付会社』をリリースした黒木亮氏が語る。

前編から読む

 格付けのコンピューター化に加えて、証券化商品に「間違った格付け」がつけられたもう1つの理由は、格付会社の経営方針の変化である。

 『トリプルA』を書くきっかけとなったのは、ある米系格付会社の社員からの告発だった。「格付会社が利潤追求に走り出して、格付けがおかしくなっている。このままでは格付業界にとっても、投資家にとってもたいへんなことになる」といった切実な状況を訴えてきたので、これは書く意味があると思った。

黒木 亮氏(写真:稲垣 純也)

 格付業界に異変が生じたのは、2000年にムーディーズ・インベスターズ・サービスがニューヨーク証券取引所に上場した頃からだった。ちょうど前年にゴールドマン・サックスが上場したのと相まって、米国金融業界の利益志向がかつてないほど高まりつつある時期だった。また、CDO(債務担保証券)という時限爆弾が世界中にばら撒かれ始めたのもこの頃だった。

 ムーディーズをはじめとする米系格付会社でも、伝統的なコーポレート(社債)部門よりも収益率の高いストラクチャード・ファイナンス(ストファイ)部門が台頭しはじめて、より多くの案件を獲得するために他社より高い格付けを付与しようとする傾向が強まっていった。

 ストファイの格付けの旨味は手数料の多さにある。例えば米系格付会社の社債格付手数料は1件当たり500万~1000万円の定額制だが、ストファイは発行額に従って手数料が増える従量制で、料率は0.5~10ベーシスポイント(0.005~0.1%)といったところである。仮に発行額が5000億円で料率が3ベーシスポイントであれば、手数料は1億5000万円になる。しかも、社債の格付けは1社当たり精々年間に数件しかないが、証券化商品はいくらでも創り出すことができる。

バフェットがムーディーズ株を買ったのは“儲かる"から

 現在、ムーディーズの筆頭株主は、米国一の投資家として知られるウォーレン・バフェットである。バフェットが株を買うということは、それだけ格付けのビジネス、それもストファイの格付けが儲かるからにほかならない。

 事実、バフェットは6月2日に行われた格付制度に関する米議会の公聴会で、ムーディーズの株を保有する理由をたずねられて、「企業が債券を発行するときには格付けを取ることが義務づけられている。誰もが強制的にカネを払う仕組みは強い」と答えた。その一方で、「たとえムーディーズがAAAを付けたとしても、自分で理解できないCDOは決して買おうとは思わない」といっていることは何とも皮肉な話だ。

ルールを守っているつもりなのに不祥事が起きる

 サブプライム危機をめぐる格付会社の蹉跌を振り返ってみると、これも「21世紀型の企業不祥事」の典型なのではないかと思わずにはいられない。

 かつての経済犯罪では、2~3人の黒幕が組織を支配しつつ明らかに法律を破って悪事を働いているといった構図が当てはまった。ところが最近の経済事件を調べてみると、はっきりした黒幕が存在するわけではなく、とりたてて悪人でもない多数の当事者が複雑に連鎖反応を起こしながら、結果として大事件に発展するといったケースが多い。

 企業経営にしても金融取引にしても、以前に比べてルールが格段に厳しくなっているので、意図的に不正を行うことは不可能に近い。ところが、コンプライアンスがいかに頑強でも、株主からの要求とか、一部の経営者の出世欲とか、何らかの無言の圧力が及ぶことによって、組織が利潤追求に走り出してしまうことがある。2001年に破綻したエンロンもそうだった。

 金融業界の不祥事を取材していると、そこにはいつも利益相反が存在する。ムーディーズやS&Pをはじめ大半の格付会社は、発行体(企業)からお金をもらって格付けを付与しているので、監査法人と同じように、もともと利益相反が起きやすい。そうした土壌があるところに、格付会社の株式上場や証券化バブルというイベントが重なって、不祥事に発展するのだ。

コメント4件コメント/レビュー

メキシコ湾事故を受けて英BPの長期格付けが「AA」から6段階格下げして「BBB」になったのは記憶に新しいところです。言うまでもなくBPは英国のトップ企業であり、英国の年金生活者はBPからの税収をあてにしています。消費税20%で先手を打ったようですが、英ポンドの行方にも注意を払わねばなりませんね。(2010/06/29)

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「「ストファイ(証券化)」が格付会社を狂わせた」の著者

黒木 亮

黒木 亮(くろき・りょう)

作家

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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いただいたコメント

メキシコ湾事故を受けて英BPの長期格付けが「AA」から6段階格下げして「BBB」になったのは記憶に新しいところです。言うまでもなくBPは英国のトップ企業であり、英国の年金生活者はBPからの税収をあてにしています。消費税20%で先手を打ったようですが、英ポンドの行方にも注意を払わねばなりませんね。(2010/06/29)

難解な問題を解りやすく解説していただき勉強になりました。債権を譲渡する(証券化し販売する)ことは買う側からすれば資金化までのリスクを抱え込むことです。万が一の事態でいくらかでも保証してくれるわけでもない人(会社)にこの商品は優良ですと言われても自分で見て納得できなければ買わない、バフェット氏の言うとおりと思います。特に個人の債務を束ねたものを購入することは信用の確認が出来ない。住宅ローンであればせめて平均経過期間と延滞率が分かれば少しは参考になるかもしれませんが(10年以上経過してるとか、延滞率が1%以下とか)、そういう情報を見えなくして格付でうまく買わされたということでしょう、冷静に考えると格付けなんて必要ないことになりませんか。格付け会社が格付けに合わせて80%保証するとか、20%保証するとかすれば考えられなくもない、一番のリスクは格付け会社が何のリスクもとらないことではないでしょうか。(2010/06/29)

グローバル時代において資金に国境はない。そうなると、全世界でみたら一瞬で百兆円単位のお金が動いた場合の影響は一企業の不祥事以前に制度がついていけなくなってるのだと思う。カオス理論で考えれば、ここの企業、投資家の行動は些細なことでも時間軸の推移とともに影響は増幅されるでしょう。例えば中国であっても全世界が一斉に資金引き上げを行えば中国のGDPを一瞬で超え、中国を破綻に追い込めるでしょう。日本だと日本中の老人が全貯金をおろすと銀行が一瞬で潰れますし(ちょっと例えにならないけども)。(2010/06/29)

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