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予想外の躍進はブブゼラのおかげだろうか

2010年6月25日(金)

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 眠れない。とても疲れている。

 大丈夫。鬱ではない。眠れない夜があるというだけで、昼間は寝ている。
 問題はむしろ、起きていられないことだ。気がつくと夢の中にいる。現実との境界が日に日にあやふやになってきている。眠れないとか言いながら、うとうとしてばかりいる困った社会人。いや、これは寝不足ではない。単なる就寝リズムの乱れなのだと思う。4年に一度、W杯開催時期にやってくる家庭内時差ボケの日々。毎度同じだ。決勝トーナメントに突入する頃には体がガタガタになっている。W杯は長丁場だ。最後にモノを言うのは技術でも精神力でもない。体調だ。

 ん? ということは、予選リーグを通じて顕在化しつつあるヨーロッパ勢の低迷も、もしかしてその背景には、体調管理の失敗があずかっているのだろうか。
 治安の良くない街で過ごすことのストレス。睡眠不足。家族と離れて暮らす日々の不安。
 ありそうな話だ。
 が、なによりブブゼラ耐性の低さが彼らの精神をむしばんでいるはずだ。

 そう。一体にヨーロッパの人々は、わたくしどもアジアやアフリカの住人と比べて騒音に弱いのだ。彼らが半月以上の間あのブーブー音に耐え続けられるとは思わない。
 そう考えれば、わが代表チームの予想外の躍進(※個人の感想です)もまた、日本人のやかましさへの親和性のおかげだと見ることも不可能ではない……とかなんとか、話をそらすのはよろしくない。正直に予想が外れたことを認めよう。そして、謝罪だ。うむ。すまなかった。三連敗などと失礼な予想を掲げたのは、私の不明のいたすところだった。

 ハードルを下げようとしていたなどと、いまさら弁解はしない。
 私がしていたのは、代表選手諸君の足元に穴を掘ることだった。
 やりにくかったと思う。走りにくかったはずだ。勘弁してくれ。
 お詫びに土下座マンを描いた。縮小してプリクラの用紙にでもプリントしてみてください。全方位土下座な人生を送っている向きには有用なビジネスツールだと思います。

 以上でサッカーの話はおしまい。この先のことは書かない。デンマーク戦もまだ終わっていないことだし、結果によってはもう一度手の平を返さなければならなくなるから。

 今回は、騒音の話をする。連日のサッカー観戦の中で思い当たった騒音および人々の声量、ならびにわれわれの耳の堕落について、だ。

 ブブゼラは、まことに恐れ入った楽器だ。
 あれほど果然としてやかましい音塊がほかにあるだろうか。
 試合観戦を重ねるうちに、私はあの音に郷愁に似たものを感じるようになった。あの巨大な虫の羽音みたいな無思慮な雑音。アフリカの光。とてもではないが、ヨーロッパの人間は、あの音圧には耐えられないだろう。

 音楽の三要素はリズムとメロディーとハーモニーです、と私たちは中学校の教室でそういうふうに習った。おそらくそう教えていた音楽の教科書のネタ元は、ヨーロッパ音楽の伝統であったはずだ。教会音楽とオーケストラ。オペラの遺産。そういうものを至上とする音楽出版社の作文が、われわれの教養を育てたのだ。

 そのヨーロッパ標準の音楽観からすると、あのブブゼラの、律動とも旋律とも和声ともほとんどまったく無縁な爆裂的な吹奏音は、雑音ないしは騒音として分類されるところの何かなのであろう。音量の点からしても。実際、欧州人は日本の電車の車内放送や商店街の音楽にさえ眉をひそめる人々だからだ。それほど彼らは騒音耐性が低い。

コメント46件コメント/レビュー

私はこのコラムで『本田△』を知りました。何だかんだ言っても、小田嶋さんはサッカー好きなのですね。(2010/07/01)

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「予想外の躍進はブブゼラのおかげだろうか」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

私はこのコラムで『本田△』を知りました。何だかんだ言っても、小田嶋さんはサッカー好きなのですね。(2010/07/01)

想像出来る限り、全ての幸運がこの時期に集まったという事もあるので、敗北予想は当然だと思いますよ。大会2週間前 メンバー23人を決めた後に、「システム・思想・主将・守護神・司令塔」全部を入れ替えるなんて冒険はそうそう上手く行く訳がないし、やはり急造チーム故に、負けてる時や同点の時に、交代枠までチームを練れていないのは一目瞭然でしたから。どちらかというと、これだけコロコロと手のひらを返すマスコミって職業病が信じられないですね。(2010/06/30)

若いアナウンサーが勘違いしてるのではなくて、プロデューサーだかディレクターだか、番組を仕切ってる人がやらせてるんでしょ。現地リポート(裁判所とか事件現場とかからの)の民放アナウンサーが、一様に「息を切らせながらしゃべる」のも、臨場感を出すための演出なんだろうけど、わざとらしいのでやめて欲しい。(2010/06/29)

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