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人は相手の善意ではなく
自己愛(セルフ・ラブ)に訴えるのだ

わたしは愛する【5】

2010年7月22日(木)

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政治経済学の誕生

 さらに重要なことは、誰もが自分の保存を第一の目標とする権利があるというこのホッブズの原理は、政治哲学の分野にとどまらず、経済学の分野でも基本的な原理となったのである。資本主義社会の発展とともに、経済というものの考え方が基本的に変化してゆくのである。

 経済学(エコノミクス)という語はギリシア語の家政術(オイコノミケー・テクネー)からくる。オイコスは家であり、経済学は家の管理と支配の術の意味だった。家の主人が女たちに手仕事をさせ、奴隷たちに労働させ、家計を管理するための術である。この伝統は中世を通じてそのまま維持された。近代の初頭になっても、経済学は君主の家計の意味からそれほど逸脱していなかった。

 それがやがて重商主義の時代になると、君主の家計が国家全体の家計に拡大され、経済学は政治経済学(ポリティカル・エコノミー)と呼ばれるようになる。しかし誕生当初の経済学は、君主が国家を運営するための術という意味をまだ帯びていた。重商主義とは、国家を一つの家計とみなして、収入を増加させ、支出を減少させるという国家の家計の術、国家の富を増大させる術だったのである。

重商主義

 家計の収支が主として貨幣の出入りで計算されるように、国家の富も貨幣の増減で計られていた。だから輸出を増大させ、輸入を減少させるならば、国家に残る貨幣の量は増大する。輸出を増大させ、輸入を低減させるには、殖産興業が必要であり、国民が豊かになる必要がある。しかし重商主義の目的は国民そのものであるよりも、国家の備蓄の増大であった。節約することでも、植民することでも、関税をかけることでも、収入は増大させることができるからである。反対に国民がみずからの欲望に忠実で奢侈であり、浪費すると、どれほど生産しても国家は貧乏になると考えられた。

 このことを、イギリスの重商主義の理論家のトーマス・マンは次のように説明している。「大いなる配慮と慎重さをもって、常に、輸入し消費する外国商品よりも多くの国内商品を輸出し、……その差額を財宝として国内に持ち帰る」[1]ならば、国は豊かになるだろう。これにたいして「内外の商品を過度に浪費するため、反対の過程が行われるところでは、かかる浪費を賄うために必ず貨幣が輸出されねばならず、かくて人民の生活状態を退廃せしめ、そのため富裕な数多の国が極度に窮乏に陥るのである」[2]。だから「財宝を増大せしめ勤勉とそれを維持する節倹とは、一王国の財宝の真の監視人となる」[3]のである。

スミスと自己愛

 この重商主義の経済学を批判し、国家による貿易の管理が無効であり、人々がみずからの欲望にしたがうままにすることが重要であることを訴えたのがアダム・スミスである。まずスミスは国家の富とは輸出と輸入の差額として残る貨幣の量ではないと主張する。「国民の労働によって生まれる生産物によって、国民の生活が豊かになること」こそが重要なのだとかどうかが問題なのだと指摘する。国の豊かさとは、国民全体の豊かさのことなのだ。

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「人は相手の善意ではなく
自己愛(セルフ・ラブ)に訴えるのだ」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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檜山 敦 東京大学先端科学技術研究センター 講師