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どのようにして「あなた」を愛するようになるのか

わたしは愛する【7】

2010年8月5日(木)

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他者への愛

 ここで問題になっているのは、人間はどのようにして自己愛から脱却して、他者を愛するようになるかということだった。「わたしは愛する、自分を」という愛する自己だけが重要である段階から、「わたしは愛する、自分ではなく、あなたを」という二人称の愛の段階に進んできているのである。フロイトが問題にするのは、「あなた」とは誰なのか、そしてどのようにして主体は自己ではなく、「あなた」を愛するようになるのかということである。

 そのためには人間は、自己を愛する自体愛の段階から、対象選択をおこなって他者を愛する段階にまで成長しなければならない。この他者への愛にあっては、場合によっては「あなた」のためであれば、喜んで自分の命を捨てるような状態にまでなることも少なくないのである。この他者への愛において、自己への愛は完全に否定されているようにみえる。それはどうして可能なのか、そしてこの愛において、自己への愛はほんとうに否定されているのだろうか。フロイトの語る幼児の成長段階を追いながら、この問題をさらに掘り下げてみよう。

口唇的体制

 幼児の成長は、自体愛的な口唇的体制から始まる。この体制は母親の乳房を吸っていて、満ち足りて、幸福そうに笑い、眠っている状態に象徴される。幼児は母親に愛されている。幼児は母親を愛するというよりは、母親に愛されている自分を愛している。人間の成長の最初の幸福な状態である。幼児はここでは完全に受動的である。「ここでは性的な活動がまだ栄養物の摂取と分離しておらず、この体制の内部の異なった要素が、まだ対立関係を形成していない」[1]のである。

 しかしこの段階からすでに原初の幸福は脅かされており、はかないものである。人間はこの幸福な境地に長くとどまることができないのだ。子供が欲したときに、母親の乳房が登場するかどうか、ほしいと訴えたときに、乳房が与えられるかどうかは、保証のかぎりではない。そのために子供は腹を立て、欲求不満になり、やっと与えられた乳房に歯を立てる。子供は幻想のうちで乳房を罰しているのであり、食いちぎっているのである。これが口唇的な体制のカニバリズム的な段階と呼ばれるものである。ここでは子供は受動的な姿勢を捨てて、能動的な姿勢を取り始めると考えることができる。

 メラニー・クラインによると、子供を幸福にする「よい乳房」、すなわち母親は、「自己保存的な欲求と官能的な欲求を最初に満たし、安心感を与える」[2]ものである。子供は母親を愛する。しかし乳房はつねに欲求を満たしてくれるとは限らない。母親が不在だったり、用事で授乳できないこともあるだろう。

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「どのようにして「あなた」を愛するようになるのか」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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