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グーグル、そして英語化される世界について考える

2010年8月6日(金)

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 日本のヤフーが米グーグルと提携することになるようだ。
 驚くべきニュースだ。驚天動地の出来事と申し上げても良い。
 が、誰も驚いていない。
 私もだ。
 まったく予想外だったにもかかわらず、ニュースを知った5秒後には、そんな気がしていたような気持ちになっている。現在では、「予想通り」だったというニセの感慨を抱くに至っている。即席コメンテーターの安心立命術。なんという欺瞞。食べていないぶどうが酸っぱいとか、そういう予防線のレベルではない。口中にある梅干しが甘いと言い張る域に到達している。哀れですらある。

 この分野(インターネット関連)について、私は、もう何年も前から、予測や展望を放棄している。

「よぐわがんね」

 といったあたりを公式な態度として事態を乗り切っているわけだ。
 そのくせ、(あるいは、だからこそ)、「どうせ驚くべきことが起こるのさ」という点についてだけは、強い確信を抱いている。おかげで、何が起きてもびっくりしない。いや、達観とか悟達とか、そういうことではない。無感覚だ。おそらく私は、意表を突かれることに疲れていて、何かを感じることを拒否しているのだと思う。南アフリカあたりの治安担当官僚の心境。あるいは底辺校の生活主任教諭の諦観ぐらいだろうか。

 ヤフーといえば、日本の検索サービス最大手だ。その、リーダーカンパニーが、独自の検索エンジンの開発・使用を放棄したということは、これは、普通に考えてただごとではない。この決断がもたらす影響力の大きさは、ある程度時間が経過しないと正確には把握できないだろう。それほど、このニュースの持つ意味は大きい。

 私はこれまで、グーグルの一極支配について、比較的楽観的な見方をしてきた。
 軽く見ていたということではない。
 十分に警戒はしてきた。というよりも、毎度びっくりさせられている。
 ただ、出版業界の一部の人々が、「インターネットの脅威」ということを、あまりにも図式的に語ることに違和感をおぼえていて、それで、対抗上、火消しに回る機会が多かったということだ。

「大丈夫ですよ。『1984』じゃあるまいし」

 「1Q84」ではない。「1984」だ。ジョージ・オーウェルが1949年に描いた近未来小説だ。1974年に、デビッド・ボウイが同名の曲を録音している。とにかく、われわれの世界は、その「1984」の世界とは違う。あんなに単純じゃない。われわれのビッグ・ブラザーはより強力だが、われわれは小説の中の人々ほど無力ではない――と、そんなふうに私は考えていた。

 でも、ヤフーが検索エンジンを諦めて、マイクロソフトの業界支配力がOSの後退とともに漸減して行くのだとすると、グーグルを止められる存在はどこにもいない。無敵だ。と、グーグルが情報世界の覇権を握った時代の先に、何が待っているのかは、もう誰にも想像がつかないはずだ。人類にとって、こんな事態は未経験だからだ。ローマの支配は全世界の半分にも及ばなかった。20世紀後半のパクス・アメリカーナでさえ、これほど一方的ではなかった。比べられるとしたらV9時代の読売巨人軍とその周辺に散在していた御用マスコミの関係ぐらいだ。いやな時代だった。

 今世紀のはじめ、ネット上で流れたジョークにこんなのがあった。

「窓(windows)および、その窓から望む景色はマイクロソフト社(R)の登録商標であり……」

 つまり、前世紀の終わりからミレニアムのあたりまで、来るべきビッグ・ブラザーの候補者と目されていたのは、まず何よりもマイクロソフトだったわけだ。
 そのマイクロソフトが、10年もたたないうちにグーグルにねじ伏せられようとしている。驚くべき事態だ。
 そして、グーグルは、窓のみならず、壁も天井も床も、果ては城の城壁にいたるまでのすべてを手の内におさめようとしている。
 この先、あらゆる分野のすべてのコンテンツというコンテンツは、グーグルと無関係ではいられなくなる。
 と、それらは、キッチン用のスポンジやキャベツやスニーカーのように、売り手の自由裁量で値段の付けられるありふれた商品になる。
 それが良いことなのか悪いことなのか、私にはまだよくわからない。
 ただ、コンテンツをめぐる商売の形が、この先しばらくの間、ひどく混乱するであろうことは想像がつく。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「グーグル、そして英語化される世界について考える」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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名和 利男 サイバーディフェンス研究所上級分析官