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那覇のリアルな暮らしを誰も見ていなかった

いしかわじゅん『ファイアーキング・カフェ』

  • 浅野 白湯

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2010年8月10日(火)

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 いしかわじゅんの『ファイアーキング・カフェ』は、現代の沖縄は那覇を舞台にした連作短編集だ。

ファイアーキング・カフェ』、いしかわじゅん 著、光文社、1680円(税込) ギャグマンガ家としてデビューし、最近はマンガ評論やテレビのコメンテーターとしておなじみのいしかわじゅん。5冊目の小説集は、那覇を舞台にした6つの連作短編を収録している。タイトルのファイアーキングは、器の素材のこと。

 観光やビジネスで、沖縄を訪れた人の数は少なくないだろう。自然と触れ合えるビーチリゾート、祭りの熱気、神話的なパワースポット--沖縄は「ここではないどこか」を求める旅行者のエキゾチズムを満足させてくれる、完璧な楽園だ。

 いしかわじゅん『ファイアーキング・カフェ』には沖縄と聞いて誰もがイメージするであろう、ビーチリゾートも米軍基地も出てこない。そこに登場するのは、本土(日本のほかの都道府県)から那覇にやって来た、元丸の内OL、キャバクラの客引き、借金がかさんだ出版社社長、レズビアンの恋人たちなどのよそ者ばかりだ。

 南の島のハッピーな物語を期待して読むと、肩透かしをくらうに違いない。代わりにそこにあるのは、「どこか」が「ここ」になったときに知る、楽園の日常とその息苦しさ。05年に那覇に仕事場を借り、ゴールデンウイークと8月をのぞく毎月の一週間をそこで過ごした時間から生まれた、リアルな那覇の姿がそこにあるのだ。

住んでみたら、那覇は知らない街だった

--『ファイアーキング・カフェ』の6本の連作を書こうと思ったきっかけは何でしょうか。

いしかわじゅん(以下、いしかわ) 沖縄って、毎年住民票を移す人が3万何千人ほどもいるんだよ。住民票を移さない人も含めると、膨大な人が流れ込んできて、8割くらいはまた住民票を戻してしまう。その本土からいわば流れてきた人たちが、動いていたりふらふらしたりして、目立っているのが那覇。

 本土から那覇に来るのって、東京の西荻窪から吉祥寺に引っ越すのとわけが違うじゃない? それまでの人生や係累(けいるい)やキャリアをいったん置いてくるわけじゃない? それって大決断だとおれは思うんだけど、でも実際に彼らに訊いてみるとそうでもない。なんかふらっと来るんだよね。

 那覇のいきつけの店で働いてる連中に「君はどこから来たの?」っていう話をしたらみんな本土からで、来た理由は「何となく、ここじゃないどこかにいきたくなって」。誰に訊いても「何となく」って言うからちょっと面白くなって、会う人会う人片っ端に根堀り葉堀り訊いて、これはコラムじゃ書ききれないなと思っていたところに声がかかって短編を一本(『ファイアーキング・カフェ』収録『ダリア』)書いた。一本書いてみて、男と女の話を那覇を舞台にして書いていけば、その感覚が表せそうだったし。

 最初は先まで見通して書いてなかったから、次に頭の中で組み直して登場人物がそろう表題作の『ファイアーキング・カフェ』を書いたんだけど、『スターウォーズ エピソード1』が後からできたのと同じだね。

--沖縄に仕事場を持ったのが、『ダリア』を書いた2005年ですね。

いしかわ 沖縄自体にはもう30年近く遊びに行っていて、何十回も行くところなんてそうはないじゃない。単行本用に集中できる仕事場がほしかったんだけど、思ってたより安かったから契約することにした。

 で、沖縄もだいたいわかってるし、とくに那覇だったらもうおれはわかってると思ってたんだけど、住んでみたら、那覇は知らない街だったね。こういうところだったのか~と思って、それが面白くて書き始めた。

南の島ってことに目を眩ませられているんだよね

--沖縄に来る人たちというのは、本土に居場所がないから来るのでしょうか?

いしかわ 最初はそういう理解だったけど、そうでもないんですよ。向こう(本土)で何の問題もなく暮らしていたんだけど、ある日ふと「ここじゃないどこかにも自分の場所があるかもしれない」と思って、生活全部捨てて来ちゃうんですよね。世代的には10代から30代終わりくらいまでが来るかなぁ。

 60代半ばで会社経営をしている知り合いは、20年くらい前に何年か沖縄にいて「沖縄は人生の踊り場だった」って言ってる。ずっと階段を上ってきたんだけど、沖縄にいた何年かは踊り場だった。進みも下がりもしなかった。毎日働いてはいたんだけど、ずっと同じ位置にいた。沖縄はそういうとこが居心地がいいのかもしれない。

 なかにはとけこめない人もいて、沖縄に10年近くいても帰るときに「沖縄大嫌いだ、沖縄の連中は誰もおれに心を開かなかった」って言った人もいるらしい。「みんな仲良くなるんだけど、最後の一歩で誰もおれを踏み込ませなかった」って言ったらしいんだけど、おれはそれはお前が悪いよ、って思う。よそ者なんだもの、急に心なんか開かないよ。

 それは南の島ってことに目を眩ませられているんだよね。南の島だから何となくみんな陽気で開けっぴろげと思うんで、それは間違っているんだよね。観光客には愛想がいいんだけど、住んでしまえば隣人でこれから毎日暮らさなくてはいけなくなると、そう開けっぴろげにはなれない。それを当たり前だと思えれば、案外普通に暮らせるんだけどね。

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