「毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド」

86. オタク文化と戦後モダンアートの遺伝子。

【後篇】『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』を待ちながら

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2010年8月18日(水)

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 日直のボウシータです。お暑うございます。

 前回、1970年には勅使河原宏や岡本太郎などの戦後モダンアートと昭和40年代特撮怪獣ドラマが兄弟だった、という話をした。

 たとえば、1960-70年代に円谷プロ制作の特撮怪獣ドラマでウルトラマンやウルトラ怪獣や各種メカのヴィジュアルを生み出したデザイナー成田亨は、1950年代から活躍する彫刻家であり、また「太陽の塔」(1970)の内側の「生命の樹」をデザインした美術家でもある。

 いろんなものを無節操に呑み込んでいくのが、サブカルチャーの強みだ。

20世紀少年 第2章 最後の希望』堤幸彦 監督、バップ、3990円(税込)
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』通常版、庵野秀明 総監督、キングレコード、4935円(税込)
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 EVANGELION:2.22 YOU CAN (NOT) ADVANCE.』通常版、庵野秀明 監督、キングレコード、5985円(税込)

 1970年に、浦沢直樹も庵野秀明も10歳だった。

 浦沢直樹原作の映画『20世紀少年 第2章 最後の希望』(2009)公開時のイヴェントで、「太陽の塔」が「ともだちの塔」になったとき、上下の顔は「ともだち」のシンボルマーク(目と手。一見手抜きっぽいがよくできている)になっていた。

 なんだか「太陽の塔」自体が、庵野秀明の『新世紀エヴァンゲリオン』TV版の第10使徒サハクィエル(これも目の怪物)になったみたいだった。

 そもそも「太陽の塔」には上の顔と下の顔があるが、金色をした上の顔はウルトラマンだけでなく、TV版の第3使徒サキエル(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』[2008]の第4使徒)や『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』[2009]の第7使徒の顔ともつうじるものがある。

 戦後「大衆的前衛」芸術は、世紀転換期の物語コンテンツに回帰してきたのだ。

 庵野秀明が大阪での日本SF大会(1983)のさいに自主制作特撮映画『帰ってきたウルトラマン MATアロー1号発信命令』の監督・主演をやっていることはよく知られている。

 TV版第5使徒ラミエル(『序』では第6使徒)が形も音も光怪獣プリズ魔へのトリビュートであることは有名だが、これとかTV版第10使徒サハクィエル、第12使徒レリエル、『破』の第8使徒のような抽象度の高いデザインの敵は、プリズ魔やブルトン、バルンガといった、顔も手足もない連中へのトリビュートとすら思えてしまう。

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著者プロフィール

千野 帽子(ちの ぼうし)

パリ第4大学博士課程修了。京都在住の勤め人・俳人。2004年より休日のみ文筆業。著書に、「東京新聞」連載をまとめた『文藝ガーリッシュ 素敵な本に選ばれたくて。』『世界小娘文學全集 文藝ガーリッシュ舶来篇』(河出書房新社)、「野性時代」連載をまとめた『読まず嫌い。』(角川書店)、読書漫筆集『文學少女の友』(青土社)。「ミステリマガジン」「ジャーロ」にて連載、また「東京新聞」「讀賣新聞」「SPUR」「Figaro japon」「BRUTUS」「HanakoWEST」「yomyom」「週刊文春」「文藝」「文學界」「すばる」「ユリイカ」「真夜中」「小説トリッパー」「早稲田文学」「ダ・ヴィンチ」「週刊読書人」「別冊宝島」などに寄稿。



このコラムについて

毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド

この連載は、「働く大人」の読者の疲れを癒し、リフレッシュして勤労意欲を高めるのに向いた文学作品のガイド、では断じてない。そうではなく、こちらが文学の世界に単身潜入して、大人の読者に向けてレポートするものである。ここで取り上げるのは、働くということにまつわる、個別の奇妙さ、ヘンテコさ、そこから立ち上がってくる疑問をうじうじと、ひとつひとつ拾っていく、そんな文学や漫画。私たちが毎日そんなことをしていれば、仕事が立ち行かなくなるから、代りに文学がそれをやってくれている。腸内細菌のようなものだが、腸内細菌と違って、なにかの役に立つという保証がないのが文学だったり漫画だったりするのである。そういうものを紹介する連載だ。だから、仕事中にこっそり読んでほしい。

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