「超ビジネス書レビュー」

どっちの指揮者SHOW!『証言・フルトヴェングラーかカラヤンか』
〜「いい人」のまま組織を束ねることはできるか?

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2010年9月1日(水)

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証言・フルトヴェングラーかカラヤンか』川口マーン惠美著、新潮選書、1365円

 趣味は何ですか? と訊かれて「クラシック音楽鑑賞」と答える人は、無邪気な人だ。

 まったくクラシックを聴かない人から「お高くとまっている」と思われていることも知らないし、クラシック音楽にどっぷり浸かっているクラシックマニアから「何も知らないくせに」と内心軽蔑されていることに気づいていない。だから、クラシックマニアは不用意に「趣味はクラシック」なんて答えない。

 かくいう私は、「クラシックが趣味」と公言することの怖さが分かる程度の「クラシック憧れ人」だが、そんな私から見ると、クラシックファンにはスゴい人が多いのに驚く。

 交響曲といえばまだベートーベンの「運命」と「第九」くらいしか知らない高校1年の夏、訪ねた友人の部屋にクラシックレコードが300枚も並んでいるのを見て、あ然としたことがある。また、会社の先輩の中には「フルトヴェングラーの現存する録音を全て集めるのが趣味」という猛者がいたし、「同じ曲でも指揮者や録音時期が違うと別物だ」といいながらマーラーの4番だけで20枚以上のCDを集める人もいた。

 そんなマニアのおかげで、とかく近寄りがたい印象を与えてしまうクラシック音楽だが、ふだんクラシックを聴かない人でも「カラヤン」の名前くらいは知っていることだろう。

フルトヴェングラーとカラヤンの確執

 1908年生れのヘルベルト・フォン・カラヤンは、ベルリン・フィル常任指揮者・芸術監督として、20世紀後半のクラシック音楽界に君臨した。そのカラヤンの前任者フルトヴェングラーも、54年に亡くなる直前まで名指揮者として不動の地位を誇り続けた。

 20世紀のクラシック界を二分したともいえる2人だが、彼らがはげしく火花を散らしていたことは、クラシックファンの間でよく知られている。

 この反目しあった2人の指揮者の下で演奏したベルリン・フィルの団員を訪ね、ありし日の両巨匠とのつれづれを語ってもらったインタビュー集が本書である。

 フルトヴェングラーとカラヤンの確執はなぜ生まれたのか、2人の音楽性や人間性はどのように異なっていたのか、団員たちとの関係はどうだったのか。川口氏が謎ときしながら見せてくれるのは、生身の人間の物語である。

 クラシック音楽に詳しくない人のために、ベルリン・フィルの歴史、フルトヴェングラーとカラヤンの位置づけについて簡単に説明し、一部川口氏の解説を引用させていただく。

 ベルリン・フィルは1882年に設立された。19世紀後半というと、いまは音楽室の壁に掲げられている作曲家も現役で活躍している時代で、ブラームスが自作の交響曲第3番を指揮したり、ドヴォルザークやマーラーも自作の指揮をしたりしている。

 ハンス・フォン・ビューローやアルトゥール・ニキシュという名物指揮者に率いられたあと、1922年、フルトヴェングラーが常任指揮者に就任している。

〈ベルリン・フィルは、1934年から戦時中を通じて、正式には「帝国オーケストラ」という名前だった。(中略)この帝国オーケストラが、戦時中、ヒットラーのドイツ第三帝国のために果たした役割については、数々の批判がなされている。そして、帝国オーケストラとフルトヴェングラーを切り離して考えることはできないため、フルトヴェングラーも戦後、ナチへの加担という非難を免れることはできなかった〉(引用にあたって漢数字をアラビア数字に変更)

 戦後すぐに活動が再開されるが、〈フルトヴェングラーやカラヤンたちは、ナチ協力の嫌疑が掛けられており、連合軍から公的な音楽活動を一切禁じられていた〉

 47年にフルトヴェングラーが音楽界に復帰し、ベルリン・フィルの終身指揮者となる。54年11月にフルトヴェングラーが亡くなったあと、55年にカラヤンが常任指揮者を引き継ぐ。やがて終身指揮者となったカラヤンは、89年の死の直前までベルリン・フィルに君臨する。

 偉大な2人の指揮者とはいえ、元団員たちの評価は分かれる。

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著者プロフィール

浅沼 ヒロシ(あさぬま・ひろし)

ブック・レビュアー。1957年北海道生まれ。ブログ「晴読雨読日記」、メルマガ「ココロにしみる読書ノート」に週に1冊の書評を掲載中のほか、「宝島」誌にも連載歴あり。著書に『泣いて 笑って ホッとして…』がある。



このコラムについて

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