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男性が女性を愛するようになるのは
「去勢」の働きによるのである

わたしは愛する【10】

2010年9月2日(木)

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母の恐怖

 ただしまだ問題がある。クラインの構想した妄想分裂的な態勢において、赤子はさまざまな妄想に悩まされる。自分が母親を食べてしまったという食人的な妄想は、その反動として、母親に復讐されるという妄想を引き摺りだす。食べてしまった母親は、自分を食べて復讐するに違いない。すると赤子の外部に、強力な迫害者が登場する。

 赤子は母親を何よりも愛している。愛するがゆえに、愛が報われないときの反動としての憎しみも強くなるのである。赤子の心には良い母親と悪い母親、愛してくれる母親と憎み、迫害する母親の像が、断続的に登場し、赤子はその愛と恐怖のあいだに引き裂かれる。愛が深いだけに、そしてこの関係が密接で閉じたものであるだけに、この愛は怖いものを含んでいるのである。

原母

 ゲーテは、すべてのものが生まれてくる原初的な場であると同時に、身の毛のよだつような恐怖の場であるものを「母たち」と呼んだ。そこは「生成した事物の世界をはなれて、/形をもたぬ形の世界」[1]である。メフィストフェレスはこう語る。

 メフィストフェレス 深い寂寥の底に、実は神々しい女神たちが住んでいるのです。/そこには空間もなければ、時間もありせん。--/女神たちを説明するのは、どういっていいかわかりません。/とにかく、それは「母たち」というのです。

 ファウスト(愕然とする) 母たち

 メフィストフェレス 身の毛もよだちますか[2]

 この「身の毛もよだつ」世界、母たちの世界は冥府であり、母は生命を与え、養う存在であると同時に、死へと導く存在でもある。この閉じた世界は、赤子に一瞬の油断もさせないような愛と憎悪の混濁した世界である。この妄想的な態勢から赤子はどうやって脱出できるだろうか。

他者の欲望

 これについて考えるための手掛かりとなるのは、肛門期における排泄のしつけである。小児がこの段階で学んだのは、自己の快楽を放棄して、愛する母親に愛されることの快楽を獲得することが、自身の身体的な快楽よりも大きな快楽をもたらしてくれるということだった。小児は自己の欲望ではなく、他者の欲望を欲望することを学んだのだった。そして小児は、母親の欲望を欲望しようとする。排泄のしつけは、母親の欲望する便を母親に与えることで、母親の欲望を満たすことができた。そして小児は同時に、そこに自分の欲望の充足をみいだすことができた。

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「中山元の哲学カフェ」のバックナンバー

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「男性が女性を愛するようになるのは
「去勢」の働きによるのである」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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