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たった1軒のレストランが庄内平野を変えた

2010年9月21日(火)

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 国の過疎集落研究会の報告によると、全国には6万2000もの過疎集落が存在している。そのうち、10年以内に2600集落が消滅する可能性があるという。「古老が1人なくなることは図書館が1つ消えること」。アフリカの古い言い伝えにあるように、それぞれの風土に寄り添い、作り上げてきた生活の知恵や文化が消え去ろうとしている。

 瀬戸際に立つ辺境。だが、時代に抗い、輝く人々は現実にいる。東京農工大の客員教授、福井隆氏はこういった“辺境で輝く人々”を目の当たりにしてきた。

 福井氏は年間250日以上、過疎集落に足を運ぶ「地元学」の実践者。これまで7年間、100カ所以上の現場で地域づくりの支援をしている。「地元学」とは、無い物ねだりではなく、今あるもので何ができるかを考える。そのプロセスを通して地域を元気にしていく学問である。

 多くの地域は「ここには何もない」と誇りを失っている。だが、それぞれの足元を見つめ直すことで、「何もない」と言われているところでも、未来への希望を作ることができる。地元学を通して、福井氏は地域住民に気づきを与えている。

 日本中を旅する「風の人」。ゆえに見える地域の未来。この連載では、辺境で力強く輝く人々を福井氏の目線で描く。地域を元気づけるにはどうすればいいか。住民の心に火をつけるにはどうすればいいか。集落に溶け込むにはどうすればいいか――。1つのヒントがわかるのではないだろうか。

 2回目の今回は庄内平野の灯火となった1軒のレストランを取り上げる。1人のシェフとレストランが起点となり、庄内平野が“元気”を取り戻していく過程は、多くの示唆に富んでいる。

アル・ケッチァーノ

 山形県鶴岡市の郊外に、年間4万4000人ものお客さんを接待するイタリア料理店がある。建物はお化けが出ると噂された廃業した喫茶店。真向かいは廃車の解体施設と決して恵まれた場所ではない。それにもかかわらず、1日平均125人の客を呼び寄せる。

 その店の名前は「アル・ケッチァーノ」。イタリア語かと見まがう名前だが、鶴岡庄内地方の方言で「そこにあるけちゃの」、「そこにあるからね」という意味である。飲食業界で名を轟かせているアル・ケッチァーノ。これまで雑誌に取り上げられること300回以上、新聞にいたっては800回を超える。

庄内の顔になった「地場イタリアン」

 その多くは、グルメを唸らす名店として取り上げられる。特に、常識を覆す、新しい料理を生み出すレストランとして評価が高い。

新玉ねぎの料理
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庄内のワラサ、オリーブオイルと塩だけの一品
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 例えば、日本一の枝豆として名高いだだちゃ豆、普通に茹でて食べるのではなく、フライパンで炙り焦げ目をつけて塩で出す。新玉ねぎの料理では、玉ねぎの色が変化しないギリギリの温度でグリルし、胡椒をかけてオニオングラタンスープの形で提供する。そのほかの料理と大きく異なるのは、新鮮な食材の活かし方の違い。この料理を求めて、全国各地から人々がやってくる。

 もっとも、アル・ケッチァーノの存在意義はただの名店というにとどまらない。庄内地方の元気を作る中核として、交流の場として大きな役割を果たしている。そして、経済的な評価を超えた、地域社会の新しいモノサシを提示している。

 20人のスタッフが働く本店に訪れる客数は4万4000人。東京・銀座にある山形県のアンテナショップに出店している姉妹店、「サンダンデロ」にも2万1000人が訪れる。両店をあわせれば、6万5000人が利用している計算だ。仮に1人5000円とすれば、3億円強の売上高を上げている。

 それに加えて、「地場イタリアン」を標榜しているアル・ケッチァーノは地元から食材を仕入れることに徹底してこだわっている。農産物だけでも仕入れ農家は50軒を数える。この経済効果も1億円近くはあるだろう。そして、ここで庄内の美味に出会った人々が新しい販路の誕生に一役買っている。

 実際に、銀座松屋には庄内の野菜コーナーが誕生した。東京などから庄内に美味しいものを求めてやって来る人も増えている。この店が起点となって、庄内地方を訪れる人がいるということだ。観光経済効果も相当なものだろう。

この店と組み、後継者が生まれた農家多数

 その上、オーナーシェフの奥田政行氏は、山形県「食の都 庄内親善大使」としてイタリアやスペインなどにも庄内の食材を広く販促し、大きな効果を上げている。このような経済効果だけでも、一軒のイタリア料理店の経済効果としては驚きだが、それ以上にこの背後にある地域への貢献が凄いのだ。

 アル・ケッチァーノと組んだ20軒の農家に後継者が誕生した。20歳代や30歳代の若手が会社員を辞め、農業を継いでいる。同じことが日本全国で起きれば、日本の食料自給率はあっという間に改善されるのではないか。今回は経済効果を超えた、アル・ケッチァーノの存在意義について考えてみたい。

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