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バーベキューという名の格差

2010年9月24日(金)

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 ようやく自転車で走り回ることができる気候になった。ありがたいことだ。
 もっとも、サドルに乗ったところで、行く先は知れている。たいした走力があるわけでもないからだ。自宅から10キロ圏内を行ったり来たり。精一杯足を伸ばしても20キロが限度だ。ハムスターが車輪の中を走り回っているのとたいして違わない。堂々巡りだ。ハムスター・サイクリスト。自己完結トラベラー。クローズド・ライダー。スタック・インサイド・オブ・モービル・ウィズ・ザ・メンフィス・ブルース・アゲイン。

 で、毎日のように河川敷の道路を走ることになるわけだが、川原の広場にも、秋の訪れとともに、バーベキューを楽しむ人々の姿が目につくようになってきた。
 微笑ましい光景――と言いたいところだが、ちょっと違う。都市近郊の河川敷で展開されるバーベキューは、昭和の人間が思い浮かべるような団欒の食卓ではない。集団的な示威行為に近い感じがある。党大会だとか、決起集会みたいな。

 何より、タトゥーが目立つ。
 そう。火と肉を囲んでいる若者たちは、センター街にタムロしているのと同じ層の若者たちなのだ。少なくとも私の目にはそう見える。タトゥーとピアス。下げ目に履いたパンツ。冗談みたいなサンダル。ホスト風の髪型。ジャラジャラした金属製のアクセサリー。あれは一種の武装なんだろうか。
 彼らの肩や二の腕を飾るタトゥーが、本物のイレズミなのか、それともタトゥーを模したシールの類なのかは一見しただけではわからない。でも、どっちにしてもタトゥーはタトゥーだ。そこには周囲を威圧せんとする意図が明示されている。

 夏の間も、河川敷に集まる若者はそれなりにいたし、その彼らの中には風儀のよろしくない面々も含まれていた。
 が、本番はやっぱり秋だ。
 秋になると、休日の川原はやんちゃな若者だらけになる。そして、いつでもどこでも同じことなのだが、タトゥーを入れた連中は、肌を露出したがる。タトゥーにはタトゥーの自意識が宿る。だから、スミを入れた人々は、祭りの神輿や踊りの輪の中でそれを誇示せずにおかない。で、いつの頃からなのか、川原のバーベキュー場は、タトゥー誇示のための有力なポイントになっている。もはや、家族連れのための場所ではない。とてもじゃないが、ワンボックスカーのCMに出てくるみたいな無防備な4人家族が割り込める空間ではない。

 とはいえ、自転車に乗っている当方には、実質的な被害は及ばない。道路を走っている限り邪魔になることはないし、BBQの若者たちも、わざわざ自転車のおっさんを威圧しに来たりはしない。

 私は風紀の乱脈を嘆いているのではない。
 そもそも河川敷は、上品な場所ではなかった。私が子供だった頃から同じだ。川原に集まってくるのは、社会を支えているタイプの人々ではない。学校をサボった高校生や熱意を喪失した営業マン、職業不詳のおっさん、暗い顔の中学生、犬と老人、ラジコン中年、行き場のないカップル、そういう成長経済のメインストリームからドロップアウトした人々が、三々五々通り過ぎるのが、私たちの「荒川」だった。だから、休日の河川敷で時間をツブしていたということは、あんまり大きな声で他人様に宣伝することでもなかったわけで、結局のところ、川の周辺の暗がりは、一貫して、公明正大な市民的スペースではなかったのだ。

 だから、私は嘆いているのではない。
 むしろ心配している。
 より正確に言うなら、「いい若い者」が、「川原なんかで遊んでいる」ことに対して、言い知れぬ寂しさのような感慨を感じているのだ。
 というのも、「近所の川原でタムロっている」ことは、若い人たちの「悪さ」でなく、彼らの「退行」を示す事実であるように思えるからだ。

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「バーベキューという名の格差」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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