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92. 東宝サラリーマン喜劇リターンズinバブル。

続・「働く大人」を異化する

  • 千野 帽子

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2010年9月29日(水)

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 日直のチノボーシカです。

 前回は1960年代東宝のサラリーマン喜劇映画、社長シリーズや日本一シリーズの雑味とアイロニーを回想した。60年代の娯楽コンテンツというのはまだ「まっすぐ」におもしろいものを作ろうとしていて、会社員をナナメに描く気はそれほどないはずなのだが、誇張や「やりすぎ感」によってある種の異化効果が発生していて、時間が経ってから見ると奇妙にアイロニカルに見えてしまう、という話だった。

 私はいま、アイロニーという語を故意に不正確に使っている。アイロニーには発信者の意図が必要なのだから、映画を観ている側が勝手に感じる皮肉や反語表現やナナメ感をアイロニーと呼ぶのは、厳密に考えれば間違いなのだ。しかし他にうまい言葉を思いつかないので、アイロニーで続けさせていただく。

 さて、そういうコンテンツはバブル期には存在していただろうか、なかったのではないか、というのが、前回の最後に書いた予測だった。

増補 虚構の時代の果て』大澤真幸 著、ちくま学芸文庫、1260円(税込)

 年長の読者は、ここで思い出してみよう。1980年代は物事を冷めてナナメに語ろうとする表現が大量消費と結びついた時代だった。いま私は、大澤真幸が『虚構の時代の果て』で述べた〈アイロニカルな没入〉論とはとりあえず離れた文脈で書いてますが、どこかで繋がっている可能性は否定しきれません。

 そういうナナメな表現の時代だった割に、88年からバブル崩壊直後のいわゆる「トレンディドラマ」のなかの「働く大人」は、アイロニーのかけらもなく描かれていた。

抱きしめたい!』浅野温子 浅野ゆう子 出演、ポニーキャニオン、31290円(税込)

 製作者側は好景気に乗っておちゃらけたドラマを作っているつもりが、見てると結局「人と人とが愛し合うって素晴しいだろ」と強く同意を求められているような気がしてきて鬱陶しい。20年以上たって増幅しようにも、殺菌されたみたいにアイロニーがもともと存在していなかったのでは増幅のしようがないのだ。

 ここで重要なことは、作中の登場人物が「働く大人」ではあっても、必ずしも「会社員」ではなかった、ということかもしれない。フリーか給与生活者か、という話ではなくて、フリーであれ社員であれ、作中の彼らのアイデンティティが、しばしば、「業界人」であることに置かれていた、ということだ(『抱きしめたい!』[1988]のスタイリストとか)。

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