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水嶋ヒロ作品という「時代の鏡」は何を映すのか?

ニュースになった文学と、ジャーナリズム

2010年11月5日(金)

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 久しぶりに「文学」がニュースになった。

 出版社のポプラ社(東京都新宿区)が運営する「ポプラ社小説大賞」の受賞作が、イケメン俳優として一世を風靡し、先日、小説執筆のために俳優業を引退すると報道された水嶋ヒロの作品『KAGEROU』だったと分かった。

 水嶋は2010年6月23日に本名の「齋藤智裕」名義で同賞に応募。到着順で415番目という早い段階での応募だったという(応募は先に引いた俳優引退報道よりも前だったとされる)。その時、応募索引に添付された申請用紙の職業欄や略歴の項目は空白になっており、その正体を知る手がかりはなかったと事務局は述べている。

 その応募作は応募総数1285作品から、最終候補の7作に残り、さらに3作が絞られ、10月25日の最終選考で大賞に選ばれた。「荒削りである」との辛口の評価もあり、賛否両論だったが、結果的に「13人の選考委員の8割がOKを出した」と報じられている。しかし、この時点に至っても選考事務局は「誰も(水嶋ヒロと)分からなかった」。

 そして、10月27日になされた受賞者との顔合わせの場で初めて「齋藤=水嶋」と判明した、という。10月31日に受賞作が発表され、翌11月1日には授賞式が執り行われた。水嶋はさわやかにステージに登場し、小説のために俳優をやめたというのは誤報であり、今後も多様な表現活動を続けていきたいと考えていることなどを語った。ポプラ社の坂井宏先代表取締役は「様々なジャンルを越えた新しい小説」と受賞作を評した。

 とはいえ、「選考結果が出るまで作者が水嶋だと一切知らなかった」とする事務局側の説明がスムーズにまかり通る状況ではない。ネット上では10月30日夜から、この話題がヒートアップしており、「出来レース」を疑う声が上げられていた。実名での応募だというが、ネット上などでは水嶋の本名は流出しており、検索によるチェックをしなかったのかとの疑問も呈された。

情報提供の機能を担っていた文学

 こうした状況を見て、「面白いな」と思った。「文学」がある意味で「健全さ」を取り戻しつつあるとも感じた。本稿は水嶋ヒロ受賞の第一報を聞いた時点で書かれているので、情報が出揃っているとは必ずしも言えないが、筆者が「面白い」と思ったのはこんな理由からだった。

 かつて文学とジャーナリズムの関係は今、思われているよりもはるかに近かった。例えば、文芸評論家の篠田一士は、近代小説がその勃興期に「情報提供の機能」を担って登場していたことを指摘している。それは「読者が経験はおろか、容易には見聞できないような、くさぐさの事象を報道する機能というか、任務をもっていた」という(篠田『ノンフィクションの言語』集英社、1985)。

 こうした時期には小説家とジャーナリストの職業的分化はまだなされていない。一例を挙げよう。明治を代表するジャーナリストとして黒岩涙香は1892年に『萬朝報』を創刊。筋金入りの反骨の新聞人だった彼は、かつて政治批判記事を書いて発禁処分をたびたび食らってきた反省から、ストレートな批判ではなく、著名な政治家や経済人の愛人関係を暴き、大衆の怒りや不信感を駆り立てることでその権威を失墜させる「搦め手」による権力批判方法に方針を転換する。

 その連載「蓄妾の実例」は大いに評判を呼んで『萬朝報』は最大発行部数30万部を数える東京一のマスメディアに育ったが、その時の彼の筆致は明らかに物語作家のそれであった。実際、涙香は『巌窟王』『噫無情(ああむじょう)』などを翻案小説の形で発表したり、翻訳に留まらず『三筋の髪』といった創作作品の執筆も手がけたり、小説家としての豊かな才能の持ち主でもあった。

 作者自身が文学創作と報道の両方に関わっていただけではない。かつては報道が文学を生み、文学が報道のネタになるフィードバック系が機能していた。

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松﨑 曉 良品計画社長