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わたしがあなたを愛するとは、あなたのあるがままを欲すること

わたしは愛する【21】

2010年11月25日(木)

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超越的なまなざしの成立

 これまで二〇回にわたって、愛の諸相について考察してきた。自己を中心としたエロスの愛、他者との二者関係の愛としてのフィロスやカリス、第三者を通じた超越的な愛としてのアガペーなど、それぞれの愛にはそれぞれの長所と短所があったことは、お分かりいただけたと思う。

 振り返ってみれば、最初に愛の思想が明確な形をとってギリシアでは、愛は自国の人々、しかも自己と対等な相手とのあいだで培われるものだった。他国の者は言葉を話せぬ者、バルバロイとして軽蔑されたし、国内にいても奴隷は支配されるべきものにすぎなかった。どちらも愛の対象としてはふさわしくないものだったのである。エロスもカリスも、対等な者どうしの愛なのである。

 しかしアレクサンダー大王のもとでヘレニズム世界が生まれるとともに、キュニコス派とストア派のもとで、世界市民という思想が生まれてきた。そして地球を外からみるまなざしもまた、可能となったのである。この超越的なまなざしのもとで、初めて自国の人々だけではなく、人間を人間として愛するという人類愛という概念が可能となったのだった。

 キリスト教がユダヤの民だけを対象とするユダヤ教から、他の民族を含めた世界的な宗教として成立するためには、このヘレニズム世界における世界市民の思想と、人類という思想が重要な役割をはたしていたのである。キリスト教のアガペーの思想は、ギリシアにはなかったこうした超越的なまなざしのもとで初めて可能になったものである。

アガペーの思想の「歪み」

 そしてこの思想は現在でも西洋の愛の哲学の基本的な軸となっているが、そこにいくつかの「歪み」が含まれるのは、避けがたいことだろう。この思想は愛する相手を神という超越者のまなざしから愛そうとする。旧約聖書で語られていたように、神のまなざしは信徒の「顔」をみない。信徒の信仰心だけをみるのである。そのためにこのまなざしはある意味では相手の「顔」を、相手の個性の違いを無視しようとする。

 愛はそもそも個別的で、そのたびごとに、愛する相手ごとに、愛する主体ごとに異なるものであるという性質をおびている。しかしこの神のまなざしのもとでは、相手がどのような存在であっても、愛することができるし、愛するべきなのである。そこに愛するはずの相手にたいするひそかな侮蔑が含まれていると言えないだろうか。

 相手の顔を無視するこの愛は、ときに自己満足に陥る傾向がある。愛することだけが重要であり、愛するために愛するのであり、その愛はときに独善的にもなりうる。その独善的な傾向がつよまると、ときには相手が愛を拒んだところで、なおも自分の愛を貫こうとする姿勢を生みかねない。相手が愛してくれないとしても、自分は愛するし、それで満足だということになるだろう。これではストーカーの愛を否定することができなくなるだろう。

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「わたしがあなたを愛するとは、あなたのあるがままを欲すること」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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