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正義という歓待、そして相手に贈物をする理由とは

贈与する[1]――正義について考える【2】

2010年12月9日(木)

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正義の概念の二つの側面

 すでに確認したように、正義という概念は、「人として踏み行うべき正しい道理」という側面と、公正さ、フェアネスという側面をそなえていた。第一の側面は、一つの共同体の内部で、多くの人々が適切と考える人間らしいありかたを指している。この正義は、人倫という語に近いニュアンスを帯びている。そしてその道を踏み外すような公正でない事柄をなされたときに、非道(ひどい)という非難が生まれるだろう。

 第二の側面は、既存の秩序のうちに埋めこまれた格差や不平等の存在、あるいは確立された秩序を踏みにじるような格差や不平等の発生を指していると考えることができるだろう。最初からすでに不平等が存在しているとき、あるいは最初はいちおうまともなバランスが存在していて、それが乱されたときに、非道(ひどい)という非難が生まれるだろう。

正義の原初的な概念

 これからさまざまなテーマについて、こうした非道(ひどさ)について考えてゆきたい。その手掛かりとして、正義の原初的なありかたについて歴史的に調べてみたいと思う。その助けとなるのは、古代ギリシアにおける正義の概念である。古代のギリシアで生まれた原初的な正義(ディケー)の概念はどのようなものだっただろうか。

 古代ギリシアでは正義とは、こうした共同体の内部での「非道」にたいする憤りである前に、まず他なる共同体との関係において発生していたのである。ギリシアでは正義はゼウスが司るものとされていた。そして「ホメロスのゼウスは、後に正義の擁護と密接な関係にある三つの権能を持っていた。第一、誓いの擁護、第二、他国人の守護ならびに歓待の掟の擁護、第三、嘆願者の擁護である。このうち第二、第三は起源において事実上同じものである」[1]という。

 要するに、一つはゼウスへの誓いを守らぬ者であり、こうした者は正義に反するとして罰せられる。もう一つは他国人の守護と歓待の掟を守らぬ者であり、この者も正義に反するとして罰せられる。第一の要素は問題ないだろう。神が神への誓いを守らぬ者を罰するのは当然なことだからだ。重要なのは第二の要素であり、ゼウスはこの正義をきわめて重視する。

ギリシアの款待

 たとえばゼウスは「主客の義を護るゼウス」と呼ばれ、「とりわけ(外来者への)悪行をその神さまはお憎みなので」[2]と歌われる。異邦から訪れた客は歓待をうける権利があるのだ。日本でも、共同体の外部から訪れる見知らぬ人は、大事にもてなすべき人であった。それは「マレビトとなり、マロウドすなわち客人となる。〈給べ〉(たべ)(交換の代価を下さい)とやってくれば、タビビト=旅人となり、〈宿らふか〉(泊まれますか)とやってくれば、ヤドオカという巡歴の人々となる」[3]のである。

 ギリシアやヘブライでは、歓待と宿泊を求めてくる旅人は、神や天使の化身であることが多く、この者を歓待せずに追い返す者は、正義に反するとして罰せられたのである。ホロメスでは、島に流れついた裸のオデュッセイアーを目撃したナウシカーは、掟にしたがって彼を歓待する。彼女は、「他国の人、また乞丐人は、すべてゼウスがお遣わしの者」[4]と語り、衣服と食物を与え、宮殿に導いて歓待するのである。

ヘブライの款待

 旧約聖書では、ベニヤミン族の村で、エフライム出身の老人の家を訪れて、「わたしたちを家に迎えてくれる人がいません」と嘆く旅人とその側女の一行に、老人は食事と宿を与える。歓待の掟にしたがって、迎えたのだ。そこにベニヤミンの村人たちが押しかけてきて、その一行を出せと迫る。主人は次のように語って、旅人を宿泊させることは正義であり、追い出すことは「非道」であると語るのである。

 「兄弟たちよ、それはいけない。悪いことをしないでください。この人がわたしの家に入った後で、そのような非道なふるまいは許されない。ここに処女であるわたしの娘と、あの人の側女がいる。この二人を連れ出すから、辱め、思いどおりにするがよい。だがあの人には非道なふるまいをしてはならない。」[5]

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「正義という歓待、そして相手に贈物をする理由とは」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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