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ジョブズにとっての「アップル」とヒッピーの「正義」

2010年12月10日(金)

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 夕刻、テレビをつける。どこもかしこも海老蔵だらけ。うんざりだ。
 で、CNNに避難する。英語のニュースはありがたい。意味がわからない分、神経にさわらないから。

「神経にさわるのがイヤなら、はじめからテレビなんか見なければいいじゃないか」

 と、賢明な諸君は言うはずだ。が、そうは行かぬのだな。インターネット登場以前に大人になった人間は、テレビのついていない部屋に一人でいられない。慣れることができないのだ。おそらく死ぬまで。だから、なんとかやかましくない番組にチャンネルを合わせることで妥協をはかる。見ていなくてもつけておく。時には音を消して。ある場合には放送大学の世話になってまで。

 時々、ふとわれに返る。
「オレは何を見ているんだ?」
 うむ。私は何のためにテレビをつけているのだろうか。

 CNNの画面には、ゼロ戦の編隊が爆弾を落とす動画が流れている。モノクロームの古いフィルム映像。戦艦が煙を上げて燃え上がっている。おお、そうだった。今日は、真珠湾攻撃の日だ。リメンバー・パール・ハーバー。彼等はいまだに忘れていない。毎年、必ず、12月8日が巡ってくる度に、あの卑怯な不意打ちと、その衝撃に端を発した戦争の日々を定期的に思い出している。

 日本の若者たちの多くにとって、12月8日は特別な意味を持っていない。ア・デイ・イン・ザ・ライフ。人生の中の一日。よくある名前の無い平凡な一日だ。

 が、年齢の行った人々にとって、この日は、太平洋戦争の開戦記念日に相当する。特別な銘記すべき一日だ。親戚の年寄りは、いまだに「大東亜戦争」という言い方をする。彼等にとって、真珠湾攻撃は必ずしも卑怯な不意打ちではなかった。どちらかといえば輝かしい勝利の記憶に連なっている。もっと言えば、奇襲攻撃は正義の鉄槌であり、大東亜共栄圏の正義だった。長らく被征服地としての地位に甘んじてきたアジアの歴史に八紘一宇の夜明けをもたらすための一撃。加藤隼戦闘隊。血沸き肉躍る栄光のアニバーサリー。いや、もちろん、思い出すことを喜ばない人々も大勢いる。簡単に整理できる話ではない。

 私の立場はいずれにも属さない。
 真珠湾も知らないし、大東亜戦争についてもまとまった知識や感情を持っていない。
 私にとって、12月8日は、ジョン・レノンが撃たれた日だ。
 1980年のこの日、ジョン・レノンは、ニューヨークの自宅前で一人の男に射殺された。

 引き金を引いたのがオアフ島からやって来た青年であったことは、おそらく偶然に過ぎない。が、偶然は、起こってしまった後の時点から振り返ってみると、何かの符合であるように見える。そういうものなのだ。

 私の世代の者にとって、ジョン・レノンの突然の死は、奇襲だった。予期せぬ暗転と自失。だから、私は無理にでも意味を求めなければならなかった。

 「いつ死ぬかわからないのに、どうして我慢なんかをする必要があるんだ?」

 そう思って私は会社をやめる決意を固めた。ジョン・レノンが生きていたら生きていたで、どうせ別の理由を見つけて我慢をしない結論に到達していたに決まっているのだが、それはそれとして、とにかく、1980年の12月8日は、私にとって、特別な一日だったのである。

 今年の11月16日の夜、アップルは同社のサイトのトップページで日本時間17日午前0時に、特別な発表を行う旨を告知した。

「明日、いつもと同じ一日が、忘れられない一日になります。iTunesからの特別な発表を、明日ここで行います。お見逃しなく」

 という文言の後に、カリフォルニア、ニューヨーク、ロンドン、東京の時計(それぞれ、午前7時、午前10時、午後3時、深夜0時を指している)を表示して、世界同時発表の雰囲気をアジテートしている。

 ティザー・カウントダウンってやつだ。「何かが起こるぞ」ということを予告して、人々の注目を引く。純真な大衆は、「tease」(じらす)されることに弱い、と、ストラテジックなつもりでいるマーケティング畑の人間はそう考えているのであろう。

コメント21件コメント/レビュー

有能な人間を頂点に押し上げるシステムがない場合、歴史的にはいつもクーデターが起こります。なになに革命とか、なんとかの乱、改革、改新、維新とか。いまや革命者の時代ですね。(2010/12/13)

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「ジョブズにとっての「アップル」とヒッピーの「正義」」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

有能な人間を頂点に押し上げるシステムがない場合、歴史的にはいつもクーデターが起こります。なになに革命とか、なんとかの乱、改革、改新、維新とか。いまや革命者の時代ですね。(2010/12/13)

大体、ビートルズのファン層の年代は音楽に音質も求めている世代だ。 なのでリマスターだとかの音質向上となると、既に作品の殆ど所持しているので必要はないのだが、嫌々ながらも「しゃーないなあ」とリリースされたCDを買い求めるのだ。 そんな世代が、非圧縮でない「低レベルの音源」のMP3やAAC如きに、ナゼ、今更、金をつぎ込む理由がどこにあるだろうか。 音楽プレーヤーで持ち運びたいのなら、当然自分のCDから移せば済む事である。  >イマジン・ゼアズ・ノー・ジョブズ。 やっぱり起業しかないか。ジョブズじゃなくて、ウォズニアックとしてね。 (2010/12/12)

 うん。私見だけどね。多様な私見を認めないシステムは敗北するよ多様性をとことんまで求めるアメリカ。多様であることを認めたがらない日本。違いますよね(2010/12/12)

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