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“暴露装置”ウィキリークスは公益にかなうのか?

ニューヨーク・タイムズのスクープ「ペンタゴン文書」との差異

2010年12月28日(火)

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 「ウィキリークス」が話題になっているが、それを語る論理は、まだ軸足が定まっていないように感じられる。

 2010年12月24日付の毎日新聞で、そのジャーナリズム史的評価について疑問を呈した。今回は限られた紙幅の中で書かれたがゆえに、その寄稿文では省略されていた論旨の補充から始めて、いわゆる「ウィキリークス問題」の輪郭を改めて素描してみたい。

 ウィキリークスによる米政府機密事項の暴露が始まった時、1971年に米紙「ニューヨーク・タイムズ」が米国防省の秘密書類を暴露した「ペンタゴン文書事件」を引く論者が多くいた。そして、両者を共に国家の情報統制に対する暴露報道の勝利だと謳いあげる。筆者が疑問を感じるのは、こうした断定的な評価だ。

 確かに内部機密の暴露という点で両者は似ている。しかし似ているのはむしろそれくらいであり、この2つは共通点よりもむしろ差異に注目したほうが「ウィキリークスの時代」の輪郭は明らかになるのではないか。

 そうした差異を参照するためにも、ペンタゴン文書事件のおさらいを少し丁寧にしておこう。それが両者を共に「ジャーナリズムの勝利」と謳いあげる姿勢を、批判的に省みる軸足になるはずだ。

少しの狂気で世界を手に入れられる

 まず事件の核にあるペンタゴン文書そのものについて。それは国防総省がまとめたベトナム戦争史である。若くして統計分析の英才として評価され、アメリカ海軍再編に科学的方法を導入、後にフォード・モーターの再建に貢献して社長となったロバート・マクナマラは、その手腕を買われて国防長官に抜擢される。彼はその職にあった1961年から1968年まで、ベトナム戦争遂行の中心人物であった。

 マクナマラにしてみれば、その戦争は「こんなはずではなかったもの」だった。彼の思うようには戦績は上がらず、その将来にも強い危惧の念を抱かせた。この戦争は将来、批判的に検証されることになるだろう、そう考え始めるようになった彼は、東南アジアの戦争にいかに米国が巻き込まれていったかが検証される未来に備えて、そして、その時に改めて歩み出される米国の新しい「歴史の出発点」となるものとして、機密ランクにこだわることなく、部局を横断して、あらゆる情報、あらゆる種類の資料と文書にあたった網羅的な調査報告の作成を求めた。

 この調査プロジェクトの正式なスタートは1967年7月7日。プロジェクトリーダーには米ハーバード大学の博士号を持つ政治学者で、マクナマラが国防総省シンクタンク(国家安全保障問題部)の責任者に任命していたレスリー・ゲルブが就任した。

 そしてゲルブが1人の戦略分析家にこのプロジェクトへの協力を頼んだことで、調査報告文書流出への道が開かれる。

 その男――、ダニエル・エルズバーグはハーバード大学でゲーム理論を専攻した戦略研究家だった。彼とヘンリー・キッシンジャーとの出会いは、キッシンジャーがハーバード大学教授だった時に主宰していたセミナーの場で、だった。1959年3月に講師として招かれたエルズバーグは「強制行為――経済紛争と戦争における脅迫の研究」という題で講演をする。その中には「恐喝の理論と実行」「狂気の政治的利用」が内容として含まれていた。

 「ほんのすこしの狂気、あるいは正気を疑われるだけでも、世界を手に入れることができるかもしれない」。エルズバーグはそう語ったという。その着眼に強い印象を覚えたキッシンジャーは、自らが国務長官になった後、外交姿勢にエルズバーグの考えを反映させ、その影響はリチャード・ニクソン大統領にも及んだ。

 「わたしはそれを“マッドマン理論”と呼ぶんだ。戦争をやめるためには、わたしがどんなことだってやりかねないと、北ベトナムに思ってもらいたいんだ」。ニクソンは側近にそう語っていたという。

(ハリソン・ソールズベリー『メディアの戦場』[集英社]より)

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