「藁でもよろしいですか?」

家にいても家に帰りたい問題と本当の自分

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2011年1月11日(火)

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 常になんの参考にもならないこの連載だが、今回は特にどうでもいいと思う。テーマは「本当の自分とリラックス」である。自分で自分のことがわからないなあ、とあやふやに生きている人以外には、関わるだけ時間の無駄かもしれないので、最初に注意書きをしておきます。

* * *

 日経ビジネスオンラインのテーマとして適切なのかよくわからないのだけれども、今あえて、本当の自分はどこにいるのかということを考えてみようと思った。きっかけはいろいろあるのだが、とりあえず、未だにメールの絵文字をどこで使ったらいいかよくわからないことを思い出したからだ。

 携帯の絵文字のリストをつらつらと眺めながら、こんなものも使えるのかー、と眺めるのは好きなのだが、今いちどう使ったらいいのかわからない。auと契約しているのだが、「天狗」の絵文字があったりして、いったい携帯メールを使うような日常のやりとりのいったいどこに、天狗の絵文字を入れる瞬間があるのだろうなどと考えに耽る。

・息子が幼稚園に合格しました。鼻高々です(天狗)

・あの人って知り合いに金持ちが多いから(天狗)になってるよね

・生まれ変わったら(天狗)に育てられたいなあ。親に捨てられてるけど特別な感じがするじゃない?

 のような感じなのだろうか。

 auの天狗は、黒目がちで口が半開きというぼんやり仕様なので、わたしは主に「朝急いでて、便器にハンカチを流しちゃったよ……(天狗)」というように、個人的に取り付く島のない話題に対して天狗の絵文字を使っている。

 なんだ絵文字使ってるじゃないか、と思われたかもしれないけれども、わたしは「天狗」しか能動的に使えない。友人からやってきた、「飲み会のお知らせ(四葉のクローバーの絵文字)」みたいなメールをしげしげ眺めながら、もしかしてきれいな一筆箋に申し送りを書く感覚なのか、などと感心しつつ、「お誘いどうもありがとうございます(四葉のクローバー)」などと応用して返信するのが関の山だ。そして、自分と同様に絵文字を使う習慣のない人に「四葉のクローバー」を使用することはない。

* * *

 前置きが長くなったが、もしかしてこれは立派な人格の使い分けではないのか、という考えに至ったのだった。

 こんな間抜けな例を引き出す間でもなく、今の世の中の人々は、オンライン人格、オンライン人格の中のツイッター人格、ブログ人格、フェースブック人格、Yahoo!智恵袋人格、オフラインで人前にいる時の人格、一人でいる時の人格、気のおけない人たちといる時の人格、など、さまざまな人格を使い分けている。

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著者プロフィール

津村 記久子(つむら・きくこ)

1978年大阪府生まれ。2000年4月より会社員。01年初頭より失業。同年末より現在まで、再び会社員。05年『マンイーター』(単行本『君は永遠にそいつらより若い』筑摩書房)で太宰治賞を受賞。08年『ミュージック・ブレス・ユー!!』(角川書店)で野間文芸新人賞を受賞。09年『ポトスライムの舟』(講談社)で芥川龍之介賞を受賞。他に『カソウスキの行方』(講談社)、『婚礼、葬礼、その他』(文藝春秋)、『アレグリアとは仕事はできない』(筑摩書房)、『八番筋カウンシル』(朝日新聞出版)。好きなテレビ番組は、「ダーウィンが来た!」、「空から日本を見てみよう」。



このコラムについて

藁でもよろしいですか?

 溺れるものは藁をも掴む、ということわざは、あんまりいい意味では使われませんが、この連載を始めるにあたっての打ち合わせで、「べつに藁でもよくない?」という論調になり、このようなタイトルを付けました。よく考えたら、わたしにとって生活するということは、岸辺に上がることではなく、流されながらおもしろそうな藁を掴み、そしてさらにナイス藁を探して溺れ続けるということなのでした。それでいつかは海に流れ着ければよいと思います。
 そうやって溺れながらいろいろ考えたことを、月に一度、大阪市の片隅の最後端の世間からお届け致します。(津村記久子)

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