• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

不機嫌に似た「無気分」のうちから考える存在の根拠

贈与する[6]――正義について考える【7】

2011年1月27日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

前回から読む)

生きることの不安

 さてこのようにぼくたちは、心の奥のどこかで、自分がまだ何ものかに借りがあること、その借りを返していないことと感じつづけている。自分の生命は何ものかによって与えられたものであり、そのことに「負い目」があるのである。

 ハイデガーは『存在と時間』では人間の世界内存在というありかたから、この負い目について語りだしている。ハイデガーは動物というものは世界のうちに、世界について知らずに生きているのであり、世界をもたないと考える。人間だけが世界をもち、人間だけがほんらいの意味で死ぬのである。

世界内存在

 この世界のうちで人間は、さまざまな事物と他者に囲まれて生きている。事物には自然の事物もあれば、人間が作りだした都市、家屋、そしてさまざまな道具や機械のようなものがある。都市と街路、都市のさまざまな施設と住宅など、人間は今や自分たちが作りだした人工のものの中に生きている。自然の事物とされている樹木や草木なども、都市の中では人間が植えたものである。この人工に作りだされた環境のうちで、ハイデガーはすべてのものが「道具的に存在している」[1]と語っている。都市も住宅も樹木も家屋もテーブルも、すべて人間がみずからの便宜のために、生活に配慮しながら、ある種の「道具的なもの」として作りだしたものだ。

 人間はさらに他者とともに暮らしているが、他者もまた人間にとってはある種の配慮の対象となるものであり、ぼくたちは他者と「道具的に」出会うことが多い。でかければ駅員さんと出会い、電車の乗客同士として出会い、話をする友人として出会い、仕事相手として出会う。他者はみずからの便宜のために、自分は他者の便宜のために、「道具的に」存在しているというわけだ。「現存在はおのれをさしあたってたいていは、おのれの世界に基づいて了解し、また他者の共現存在は、世界内部的な道具的存在者のほうからしばしば出会われる」[2]のである。「われわれが遭遇するのは、〈仕事中〉の彼らである。言い換えれば、第一次的に彼らの世界内存在においてである」[3]

 他者もまた世界の事物やぼくたちと、こうした世界内存在において出会うのである。世界はこのようにたがいに依存し、たがいに役立てあい、ときにはたがいに反発しあう事物や人々で構成されているのである。そして人々はこうした公共的な世界のうちで、生活に埋没し、気晴らし楽しみ、時間をつぶしながら生きている。

 ハイデガーはこのような生き方は、人間にとって本来的ではない生き方であり、それを「頽落」[4]と否定的な言葉で表現し、このような生き方をする人々を、「世人」(ダス・マン)[5]と表現する。このダス・マンという言葉は、人間を非人称的に表現する「マン」という言葉を名詞化したものあり、人間のだれであっても構わない非人称的な生き方を暗示したものである。

気分と不安

 しかし人々はこのような世人としての生き方のうちに安住していられるとは限らない。どこかに不安を感じるのである。「最も無頓着で最も無邪気な日常性においてこそ、現存在の存在は赤裸々な〈現存在は存在しているという事実〉として、裂けあらわれることがある。純然たる〈現存在は存在しているという事実〉は示されているのだが、それがどこから由来し、どこへ帰属するのかは不明のままなのである」[6]

コメント1

「中山元の哲学カフェ」のバックナンバー

一覧

「不機嫌に似た「無気分」のうちから考える存在の根拠」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

グローバル市場でいい仕事をしたければ、まず「世界に通用する見識」を磨くことだ。

中谷 巌 「不識塾」塾長、一橋大学名誉教授