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自己の贈与の行為から始まる宗教

贈与する[8]――正義について考える【9】

2011年2月10日(木)

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アステカの神話

 自分の存在が与えられたものであるという債務を返済する方法は、贈与にたいして自己を贈与して返済することである。これだけが真の意味での返済である。フロイトはすべての人に自己の贈与の欲望、死の欲動がそなわっていると考えたが、バタイユはこの自己の贈与が人間の宗教の根底にあると考えている。宗教は、自己の贈与の行為から始まると考えるのである。

 バタイユが語るアステカの神話によると、かつては太陽がなく、世界は闇につつまれていた。そこで神々が集まり、世界を照らすものを作ろうと相談した。するとテクシステカトルという神が、「わたしが世界を照らす役目を引き受けよう」[1]と申しでた。世界を照らすものが一つでは足りないと考えた神々は、ほかにその役目を引き受ける神はいないかと尋ねたが、誰も名乗りでず、言い訳を言うばかりだった。

 しかし言い訳を口にしない神が一人いた。腫れ物の神ナナワツィンである。そこで神々はその神に、世界を照らす役目をおしつけた。腫れ物の神は喜んでそれを引き受けた。ところで儀礼において実際に火の中に飛び込めことを命じられると、最初に申し出たテクシステカトルは怖じて、飛び込むことができなかった。

太陽の自己の贈与

 次に番がきたナナワツィンは、まったくためらうことなく、火の中に飛び込んで、焼身した。それをみたテクシステカトルもまた火の中に身を投じた。このようにして自己を贈与したナナワツィンは太陽となった。怖じ気づいたテクシステカトルは月となった。バタイユは、このようにナナワツィンが自己を贈与して生まれた太陽は、純粋に自己を贈与する存在であることを指摘する。太陽は燃え尽きるまで、地球に多量のエネルギーを贈与しつづけるのである。

 大地はその恵みをただ貪欲に望むだけである。大地のすべての生は、太陽の自己の贈与によって存在を与えられたのである。しかし「ナナワツィンは、大地の貪欲から免れて、炎のうちに自分を捧げた。猛火の中に飛び込んだのである。太陽に劣らぬ自己の浪費である」[2]。このようにして太陽の自己の贈与は、人間の自己の贈与によって生まれたとこの神話では考える。そして太陽が栄誉のあるものであるのと同様に、自己の贈与を行うことができるのは、栄誉のある行為とされたのである。「アステカ族は、太陽の光輝は、人間にふさわしい行為によって生まれたものだと考えることで、宇宙の栄誉と人間を結びつけていた」[3]ことになる。

アステカの供犠の儀礼

 この神話に基づいて、アステカでは人間の生命を太陽に捧げる供犠の儀礼が発達した。儀礼の一年前に、大事にされていた戦争の俘虜のうち、若くて美しい若者を選びだし、王侯のようなぜいたくな暮らしをさせる。そして儀礼の日に「神を体現する犠牲者は、神官の黒曜石の刀の犠牲となった。激しい一刺しで、まだ脈打っている心臓をとり出し、これを太陽に献じた」[4]のである。

 この神話では、自己の贈与を命じられるのは神々である。人間たちは、太陽の輝きを失わせないように、人間を供犠にする必要があると考えていた。フレーザーは、『金枝篇』の考察を、殺される王の神話から始めている。フロイトはすべての社会は原父の殺害から始まったと考えている。社会の誕生の背後には、暴力による殺害が潜んでいるかのようである。

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「自己の贈与の行為から始まる宗教」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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