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われわれの中にある「相撲的なるもの」

2011年2月18日(金)

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 昨年来、角界の不祥事については、当欄だけでも、3回分の原稿をアップしている。書くべきことは既に書きつくした。できれば、相撲の話題には触れたくない。うんざりだ。相撲にも相撲報道にも。

 なので、今回は、相撲そのものについてではなく、相撲を相撲たらしめているわたくしどもの世間のありようについて考えてみたい。イッツ・ア・相撲る・ワールド。吊り屋根の下の小さな世界。その互助会体質の光と影について、だ。

 相撲の闇はわれわれの足元の闇に源を発している。そして、その恥辱はわれらひとりひとりの個人的な恥辱に連なっている。それほどに、「相撲的なるもの」は、日本人の足腰に深く取り付いている。阿吽の呼吸と惻隠の情。魚心と水心。政治とカネ。土建と利権。土俵と泥と義理と人情。徳俵というグレーゾーン。白黒つけない政倫審。無罪を前提とした強制起訴の落としどころと罪を濃淡として描く水墨画的な倫理観。星取表のグラデーション。外部の識者による正常化委員会の設置というおなじみの焼け太りソリューション。うむ。厄介な話になりそうだ。

 八百長は、あってはならない出来事だ。少なくとも、建前の上ではそういうことになっている。
 が、実態として、星の貸し借りは、相撲界に常在していた。ずっと以前から。おそらく日常的に。
 しかも、相撲ファンのうちの少なからぬ層は、その存在に薄々気がついていた。
 ただ、見て見ぬふりをしてきたのだ。
 見たくないものは見ない。都合の悪い景色からは目を逸らす。ファンというのはそういう目を持った人たちだ。
 信者は見るだけでは足りない。むしろ、目を閉じなければならない。でないと信仰を堅持することはできない。

「膿を出しつくすべきだ」
「徹底的に体質を改善すべきだ」
「すべてを明らかにすべきだ」
 といった調子で、べきべき言っているテレビの中のあの人たちは、相撲ファンではない。彼等の当面の狙いは、自分が曲がったことの大嫌いな人間である旨をアピールするところにある。別に、相撲をどうにかしたいわけではない。彼等は、八百長が介在しているような汚らわしい競技は、この国から消滅してしまっても差し支えないと考えている。というよりも、ガチだろうがヤオだろうが、そもそも大相撲にさしたる愛情を持っていないのだ。

 相撲ファンの立場は違う。
 われわれは、なにより相撲の存続を願い、その消滅を懸念している。
 無論、きれいになってほしいとは思っている。
 でも、きれいになった結果消えてしまうようなら、当面は、多少病根が残っても、とにかく生き残ってほしいと、そんなふうに願っている。それがファンの考え方だ。
 一匹でもゴキブリのいる飲食店をすべて閉店に追い込んだら、オレらはメシが食えなくなる。町には、消毒くさいスカした高級店しか残らない。それでオッケーな人はかまわないのだろうが、オレはイヤだ。誰が3000円のサラダなんか食べる? 野菜ソムリエじゃあるまいし。

 誤解を恐れずに言うなら、相撲ファンは、必ずしも曲がったことが大嫌いなわけではない。
 というのも、相撲は、元来「ちょっと曲がった」見世物だからだ。長年大相撲を見てきたわれら好角家は、相撲という闘技についてまわる微妙な屈折を含みおいた上で、土俵上のやりとりを楽しんできた人間たちだ。だから、野菜炒めの中に二本や三本焦げたニラが入っていたぐらいのことで、注文した料理を皿ごと捨てたりはしない。噛み切れないスジ肉と、生煮えの人参を取り除けて、なんとか食べ切る。それが食卓に座った人間が果たすべき礼儀だと思うからだ。

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「われわれの中にある「相撲的なるもの」」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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