ストレスなどからココロを病むビジネスパーソンが増加し、社会問題化しています。メディアでも大きく報じられ、小説や映画などでも描かれるようになりました。
このコラムでは、ココロの病を扱った映画を題材にして、日本精神科看護技術協会に所属し、日々患者に接している精神科看護師の解説を交えながら、誤解されやすいココロの病の本当の症状や対処法などを明らかにしていきます。
今回に紹介するのは、若かりし時の熱愛の日々とともに、年老いて病を患った妻を献身的に支える夫の姿を描いた米映画『きみに読む物語』。この作品の中で、どのようなココロの病が描かれているのか。名優たちのリアルな演技を通して具体的な病状を正確に把握し、理解を深めていきましょう。
アメリカ南東部に位置するノースカロライナ州のとある町。川のほとりに建つ病院に併設された療養施設に入居している老婦人アリーの元を、分厚いノートを抱えた老人が訪れる。
看護師が「デュークが今日も物語を読み聞かせに来ましたよ」と告げると、けげんな表情を浮かべて「物語?」と問い返すアリー。そんな彼女をデュークは別室の椅子へと導き、向かい合って座るとこう切り出す。
「さてと、今日はどこから物語の続きを読み始めるんだっけ? そうだ、祭りの夜からだな。ノアは友達と一緒だったんだ」
するとアリーは、「ノア?」と困惑したように尋ねる。既に何度もこの物語を読み聞かされているにもかかわらず、彼女は主人公の名前を記憶していない。だがデュークはそれを気にするでもなく、「1940年6月6日、2人はその日に出会った」と前置きして続きを読み始めるのだった――。
これは、アメリカのベストセラー小説『THE NOTEBOOK』が原作の映画『きみに読む物語』(2004年に米国で公開)の冒頭シーンだ。実は、アリーはアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)で、療養施設で介護を受けながら暮らしている。
この映画自体は、強いきずなで結ばれた老夫婦の若かりし日のラブストーリーをメーンに構成されている。とはいえ、晩年を迎えた今の2人を映し出すシーンから、アルツハイマー病の患者との向き合い方やケアの仕方に関して学べる点は多い。
夫の顔も名前も記憶からすっかり消えている
前述した通り、デューク(ジェームズ・ガーナー)がアリー(ジーナ・ローランズ)に物語を読み聞かせる場面から映画は始まる。2人の関係はストーリーの中盤まで明かされないが、先に断っておくと、デュークはアリーの夫で、本当の名はノア。彼は心臓を患いながらも、アルツハイマー病の妻に付き添うため、同じ療養施設の別の部屋で暮らしている。子供たちから再三、家に戻ってほしいと懇願されても、それを拒否し続けて。
『明日の記憶』を取り上げた前回もお伝えしたが、アルツハイマー病は大脳皮質の神経細胞が壊れて脳が萎縮することで発症する病気だ。記憶力をはじめ判断力、計算力、感情や思考など、人間が備えるあらゆる機能が、最終的には損なわれてしまう。
記憶障害によって、アリーも夫であるノアの顔と名前を全く覚えていない。前回に引き続き解説を担当してもらった千葉県立保健医療大学健康科学部看護学科の講師、中村博文さんは「彼女の病状は、かなり進行しているという設定なのでしょう」と話す。
[中村講師の解説]
アルツハイマー病になると、記憶は確実に失われていきます。初期の段階から、知っている人の名前や日時などをなかなか思い出せない、新しい出来事を記憶できない(記銘力障害)といったことが増えてくるでしょう。
病気が進行すると次第に、誰が自分の家族かさえ分からなくなってきます。アリーは既に夫の顔と名前を認識できない状態ですから、病状は中期まで進んでいると考えるのが妥当かもしれません。
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