• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

不正入試とエントリーシートと「orz」な若者たち

2011年3月4日(金)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 京都大学の入学試験中に、問題の一部をインターネットの質問サイトに書き込んでいた受験生が逮捕された。
 山形県出身の19歳の予備校生だという。
 当件は、ニュースショーのコメンテーターが述べていたように「ハイテク犯罪」と捉えるべき事案なのであろうか。

 違うと思う。
 凡庸なカンニング事件だ。ハイテクどころか、犯行の手口の随所に粗雑さが露呈している。
 スマートフォンもインターネットも、いまどきの受験生にとっては、日常のツールに過ぎない。われら中高年にとってさえ、携帯とネットは既に生活の前提だ。とすれば、靴を履いた人間による犯罪をわざわざ「靴犯罪」と呼ばないのと同じく、インターネットを使った犯罪をあえて「インターネット犯罪」と呼ぶ必然性は、もはや消滅したと考えるべきだ。同様にして、携帯電話を駆使した事件を「ハイテク犯罪」として特別視する理由も無い。

 今回は、「ヤフー知恵袋」を利用した不正入試疑惑と、鹿児島の大学生による高速バス横転事件について考えてみたい。私の見るに、この二つの出来事は、いずれも「若い人たちが現実社会への適応を誤って起こした事件」という点で共通している。これは、悲鳴なのだ。とすれば、大人であるわれわれは、心して耳を傾けなければならない。

 芸術家や詩人を「炭鉱のカナリヤ」になぞらえるお話がある。
 ここで言う「カナリヤ」は、鉱夫が炭鉱に入る際に鳥カゴと一緒に持ち込む小鳥のことで、炭鉱の男たちがカナリヤを先頭に坑道を進む理由は、安全確認のためだ。カナリヤは空気の変化に敏感な生き物で、炭鉱内の空気にほんの少し有毒ガスが含まれているだけで、たやすく死んでしまう。それゆえ、カナリヤと共に坑道を行く炭鉱夫たちは、手もとにある可憐な小鳥の死によって、有毒ガスの発生をいち早く察知し、そのことによって、有毒ガスが致命的な濃度に達する前に避難する機会を得るのである。

 以上のプロットを踏まえて、芸術の擁護者を自認する人々は、芸術家をカナリヤにたとえる。芸術家がその一身のうちに備えている鋭敏な感受性が、ちょうどカナリヤが自身の死を以て炭鉱の危険を知らせるように、作品を通して時代の潮流の変化を告知している……とかなんとか。パトロンは、そうやって芸術家の役割を人々に訴え、かくして、この一つ話は、新聞社が美術展を協賛したり、地方公共団体がある種の団体に補助金を交付する際の前振りの演説として利用されるのである。まあ、枕詞みたいなものだ。

 個人的な意見を申し上げるに、私は、芸術家の先生方より、犯罪者の方が時流告知カナリヤとして優秀なのではなかろうかと考えている。
 つまり、犯罪は、社会的ストレスの露頭であり、その意味で、目新しいタイプの犯罪の発生は、われわれの社会に新たな矛盾が生まれつつあることを告げるカナリヤの歌なのだ。
 盗人に三分の理がありテロリストに三行のスローガンがあるように、犯罪者にもいくばくかの正義がある。そして、その彼等のねじ曲がった正義は、時に、時代に特有な欺瞞を鋭く告発する。そういうものなのだ。

 いや、私は犯罪の発生原因を社会の矛盾に帰することで、犯人を免責しようとしているのではない。オダジマは社会派のコラムニストではない。ただ、私は、誰かがバスをひっくり返したり、試験問題をネットに放流したりするのにはそれなりの理由があるはずで、その種の事件が起こった際には、迷惑をこうむった社会の側からの言い分とは別に、事件をやらかした人間の側の理屈に注目せずにおれない、カナリヤ派の書き手なのだよ。歌を忘れてはいても。カゴの中にいる自覚は失っていないわけだからして。

 バス横転事件を引き起こしたと見られている学生(K容疑者)は、1月5日、フェイスブックに
「今春に仕事を見つけないといけない。少しナーバスで忙しい」
 という意味の文章を英語で投稿している。
 さらに、今月16日には、ミクシィに
「ES終わらないorz」
 と書き込んでいる。

コメント99

「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

一覧

「不正入試とエントリーシートと「orz」な若者たち」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

グローバル市場でいい仕事をしたければ、まず「世界に通用する見識」を磨くことだ。

中谷 巌 「不識塾」塾長、一橋大学名誉教授