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取引における正義は均等化によって成立し、その手段が貨幣である

配分する[2] ――正義について考える【13】

2011年3月10日(木)

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「交換的正義」

 ところで正義の概念のうちで、一般に交換的な正義と呼ばれるものがある。これは人々が交換する際に、等価な交換が行われるべきことを求めるものだとされている。これは「目には目を」と、等価な応報を定めた矯正的な正義の裏返しだと考えれば、矯正的な正義の変形と考えることができる。ホッブズも矯正的な正義を交換的な正義と呼んでいる。

 しかしアリストテレスにおいては、取引の「互酬」(アンティペポントス)の正義と呼ばれる概念が別に定められていて、これは配分的な正義とも、矯正的な正義とも異なるものとして考えられている。矯正的な正義は、悪しきことにたいして悪しきことで応報するのであるが、互酬的な正義では取引という善きことにたいして善きことで報いて互酬の関係を作るのである。取引であるためにこの互酬の正義は、交換的な正義と考えられているのだ[1]が、はたしてそうだろうか。

互酬

 アリストテレスはこの正義について、「国の維持されてゆくのは比例的な仕方でお互いの間に〈互酬〉の行われることによってなのである」[2]と説明し、「善きことがらにたいしては、彼らはやはりよき仕方で応じようとする。さもなくば相互給付ということは行われず、ひとびとは、しかるに相互給付という楔によって結ばれているのである」[3]と語るのである。

 これはポリスを維持してゆくための生活必需品の相互給付であり、経済的な意味での交換ではないのかもしれないのである。アリストテレスは、市場での交易が日常的なものとなる前の時期に生きていた。「ギリシアの経済生活は、アリストテレスの時代には、交易活動も頻繁になり、貨幣使用もかなり発達していたが、全体としてはまだ市場交易のごく初期にあった」[4]のである。市場での貨幣を使った交換がごく日常的なものとなった現代の視点で眺めるのは正しくないのかもしれないのである。

 ポランニーによると、アリストテレスは「人間はほかの動物同様、本来自給自足的なものである」[5]と考えていた。しかし社会のうちには農民もいれば、医者もいる。交易が必要となるのは、異なるひとびとの間で需要が存在するからである。「足らぬところのある生活を、ちょうど自足的であるには不十分である限りにおいて、補充する」[6]ことが必要となるのである。だから交易は有用なことであり、国家にとって利益となることである。この交易の特徴は、「富にも限界が定められている」[7]ことにある。

取財術

 しかしこのような自給自足を補うものではない交易がある。それは取財術と呼ばれるものであって、「この取財術が基になって富や財産に限りがないと思われる」[8]ものである。これは自然ではない交易であり、貨幣を使うものである。これは「ただ財の交換のみによって作るものである。そうしてこれは貨幣に関係するものだと思われている。なぜなら貨幣は交換の出発点であり、目的点であるからである。そしてさらにこの種の取財術から生じる富には限度がない」[9]のである。

 アリストテレスはこの取財術は「交換的なもので、非難されてしかるべきものである。なぜならそれは自然に合致したものではなくて、人間が相互から財をえるものだからである」[10]と指摘する。利潤を目的とした交易は、無限な欲望につき動かされたものであり、非難されるべきなのである。

 アリストテレスは、とくに非難に値するのは高利貸であると指摘する。「それは彼の財が貨幣そのものから得られるのであって、貨幣がそのことのために作られた当のもの[交換の過程]から得られるのではない」[11]からである。貨幣に利子をつけるというのは、「取財術のうちで実はもっとも自然に反したもの」[12]だとアリストテレスは指摘する。

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「取引における正義は均等化によって成立し、その手段が貨幣である」の著者

中山 元

中山 元(なかやま・げん)

哲学者、翻訳家。

1949年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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