「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明」

「草食化」という思考停止が招く「少子化」

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2011年3月11日(金)

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 ここ数日、とあるレアな商品(←内緒だよ)を求めて、都内のショッピングセンターをいくつか巡回していたのだが、目当てのブツは、しかしと言うべきか、やはりと言うべきなのか、見つからなかった。

 代わりに、違うものを見つけた。いつもそうだ。私は探しているのとは別のモノを見つける。気がつくと、意図した目的地とは違う場所にたどり着いている。そして、夢に見ていたのとは微妙にズレた感じの人と出会い、予定の人生とは異なった、よりぬかるんだ道を歩むことになるのだ。BGMはロング・アンド・ワインディング・ロード。あるいは、ステアウェイ・トゥー・ヘブン。断じてマイ・ウェイではない。

 私が店頭で発見したのは、「ホワイトデーの終焉」だった。ほかにも気づいた人がいるかもしれない。自分の目で売り場を見て回った人は感知したはずだ。それほど、今年のホワイトデー商戦は、ショボかった。
 なにより、特設売り場の規模が小さい。例年、エントランスの一番目立つ場所を占有しているのに、今年は、地味な一角に追いやられている。人だかりも少ないし、品揃えも微妙に貧乏くさかった。
「なるほど」
 私は一人内心で膝を打っていた。
「若者のホワイトデー離れ、だな」

 帰宅後、早速、記事検索をしてみた。なんとなくうれしかったからだ。若者よ。君らは偉いぞ。離れるべきものからどんどん離れて、ほとんど徒手空拳じゃないか。頑張れ。この調子で仙人になってしまえ。

 しかしながら、「ホワイトデー」「縮小」「終焉」「離れ」「売上減少」といったあたりのキーワードを順繰りに入力して、ホワイトデー商戦の縮小化傾向を扱った記事をサルベージしにかかってみると、これが一向に出てこない。
 表示されるのは、「ホワイトデーにおすすめのイチ押しアイテム」だとか、「ホワイトデーの女心を酔わせる最高のひととき」だとかいった調子の、猫なで声のテキストばかり。否定的な記事はまるでひっかかってこない。

 もしかして、Google先生は、ホワイト伯爵と裏で手を結んでいて、ホワイトデー商戦にとってネガティブな情報を、検索結果から排除し去っているのだろうか。
 いや、そんな取ってつけた陰謀論を持ち出すまでもなく、商品の売上に貢献しないタイプの記事は、そもそも書かれていないのかもしれない。さもあろう。モノが売れないことについては、誰もが心を痛めている。あえて不況布告記事を書きたいと考える記者は少数派なのであろうし、萎え萎えな経済分析を読みたがる読者も、どうせそんなに多くないはずだ。それ以上に、何かが売れない旨の記事をスポンサードしたいと考える広告主が払底しているに違いない。

 であるから、昨年来定番化している「若者の○○離れ」記事でも、その論調は、若い人たちの意気地の無さを嘲笑するか、でなければ、古き良き時代を回顧するぐらいのところに着地する決まりになっている。市場の成熟を評価し、消費者の賢明さを寿ぎ、旧時代の商品文化の終焉を宣告する正直な記事にはついぞお目にかかれない。つまるところ、商業メディアの記事は、広告のおまけなのだな。

 テレビ業界でも事情はそんなに変わらない。彼らはブーム到来のニュースで消費を煽ることはしても、ブームの終焉については口を閉ざす。たとえば、食べるラー油のブームは、ほぼ終了しているが、その観察はニュースにならない。何かのブームが終わったとか、ある購買行動が末期を迎えているとか、かつてお洒落だったトレンドがダサくなっているといったようなストーリーは、Qシートから外される。というのも、市場にとってマイナスなニュースはスポンサーを連れてこないからだ。それどころか、市場の実態をありのままに描写すると、広告を引き上げられかねない。悪くすると訴訟を起こされるかもしれない。くわばらくわばら。

 てなわけで、今週のニュースワイドは、各局とも中国製の偽ブランド品が摘発されたというニュースをポジティブな情報として取り上げていた。どのチャンネルもソースは同一。放送原稿もほぼ同じ切り口だった。つまり、「ニセモノはけしからん」の大合唱だ。ニュース原稿によれば「N級品」と呼ばれる、最新の中国製のフェイクは、従来の「スーパーコピー」を超える品質で、専門家でも鑑定が困難なほどホンモノそっくりなブツなのだという。

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著者プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

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