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今こそ隣人に対して寛大になろう

  • 小田嶋 隆

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2011年3月18日(金)

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 先週の今ごろ、私は、当欄のためにホワイトデー商戦の衰退に関する原稿を書いていた。
 なんとお気楽な原稿であったことだろう。
 信じられない。半年前の出来事みたいだ。
 それだけ、私の頭の中味がすっかり入れ替わっているということだ。
 実際、この一週間で、すべての状況は変わってしまった。

 ホワイトデーの当日、私は、しばらくぶりにクルマを運転していた。計画停電(のアナウンス)の影響で電車が止まっている地域に顔を出さねばならない用件があったからだ。本心を言えば、燃料不足の折、なるべくなら自動車を動かしたくはなかった。

 ところが、ハンドルを握ってみると、ドライブは快適だった。縮こまっていた心が息を吹き返すみたいに感じられた。それもそのはず、地震発生からこっち、私は丸3日間家に閉じこもりきりで、ひたすらにテレビを見続けていたのだ。しかも、テレビの画面を凝視する傍らで、ツイッターのタイムラインをチェックし、ニュースサイトを渡り歩き、検索を繰り返していた。どうしても目を離すことができなかったのだ。あまりにも強烈で、前代未聞で、心配だったから。

 しばらくぶりに空の下の道路を走って、私は、自分が、先立つ3日の間、完全なテレビ漬けであったことにあらためて気付かされた。眠っている時以外は、一日中テレビをつけっぱなしにしていた。その間、ほどんどまったく画面から目をそらさなかった。こんなにも集中的にテレビの報道を注視し続けた経験は、たぶん、オウム事件の大団円の頃以来だ。
 クルマの中で、オーディオの音量を上げて久々に音楽を聴く。
 わけもなく、突然涙ぐみそうになる。
 私は、様々な感情を押し込めていたのだと思う。だから、一瞬、感情が制御を失ったのかもしれない。
 というよりも、あの圧倒的な地震報道の映像は、私の精神に、意外なほど大きなダメージを刻んでいたのだ。

 津波の映像はとてもキツい。
 あの凄惨な映像を受け止め続けた者は、内面に処理しきれない感情を蓄積することになる。当然だ。誰であれ、あんな画面を何十時間も浴びせられて、無事であり続けられる道理がない。
 3日ぶりのドライブで私の心が多少とも晴れたのは、外の景色を見たこともあるが、なにより、テレビの映像から解放されたからだ。要するに、私はふさぎこんでいたのだ。

 私だけではない。この一週間の間、ほとんどすべての日本人は、私と同じように、深いダメージを負っていたはずだ。
 もっとも、私のように、自分のダメージに敏感なタイプの人間もいれば、そうでない人々もいる。
 マッチョを自認する皆さんは、テレビを見た程度のことに対して「ダメージ」みたいな言葉を使う男を軽蔑するかもしれない。
「なーにを女学生みたなことを」
 と。
 しかしながら、そう言っている彼等だって外面がタフだというだけで、不死身なわけではない。内面には傷を負っているはずだ。ハードボイルドなポーカーフェースは、表情を喪失している結果で、本当のところ、その表情の意味するところは、茫然自失であるのかもしれない。

 今回は、震災報道がもたらしている心理的なダメージについて考えてみたい。
 被災者の皆さんが強烈な精神的外傷を蒙っていることは、いまさら申すまでもない。
 その圧倒的な傷の深さを思えば、物理的な損害を受けたわけでもない遠隔地の傍観者が、自身の痛みについてあれこれ語るべきではないのかもしれない。

 が、コトは単純ではない。
 被災者に手を貸すためにも、彼等の気持に寄り添うためにも、なによりもまず、直接の被害者でなかったわれわれが立ち直らなければならない。そのわれわれが、一時的なショック状態から脱して日常に復帰するためには、気持を切り替える必要がある。とすれば、まず最初に、私たちは、自分たち自身が陥っている虚脱を正直に見つめ、理解し、そうやって虚心にこの度の事態を整理し直した上で、あらためて立ち直りのためのルートマップを作るべきなのだ。

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