「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明」

この「風評」の半減期はどのくらい?

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2011年4月8日(金)

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 馬鹿祭りが中止されることになった。

 馬鹿祭りというのは、地元赤羽で50年ほど前から開催されているイベントで、中断されるのは、おそらく、今回がはじめてだ。
 商店街のホームページには、『「第56回大赤羽祭」中止のお知らせ』として、こんな文章が掲示されている。

『――前略――当実行委員会では、この度の大震災における被災者の方々の心情を考慮致しました結果、5月14日・15日に予定しておりました「第56回大赤羽祭」を中止することに致しました。何とぞご理解賜りますようお願い申し上げます。平成23年3月19日 馬鹿祭り実行委員会』

 なるほど。震災発生後一週間で、はやくも中止の決断を下していたわけだ。
 この祭りについては、以前当欄でも触れたことがある。
 興味のある向きはリンク先を当たっていただきたい。
 それ以前に、馬鹿祭りの発祥とその歴史について、旧ホームページに書いた分のテキストが見つかったので採録しておく。

1. 昭和30年代のある日、「赤羽馬鹿祭り」が企画される。
2. 当初は4月1日のエイプリルフール(四月馬鹿)が開催日で、その日にちなんだ祭りだった。
3. 高度成長期を通じて祭りの規模は徐々に拡大し、いつしかタイトルも「赤羽馬鹿祭り」から、「東京馬鹿祭り」→「大東京馬鹿祭り」というふうにエスカレートし、開催日もゴールデンウィークにずれ込むようになった。
4. が、ある時、なぜか「大赤羽馬鹿祭り」にグレードダウン。
5. 平成に入ってからは、「大北区祭り――赤羽馬鹿祭り」というふうに、「馬鹿」はサブタイトルに引っ込む方向で推移。
6. テーマソングであった「赤羽馬鹿踊り音頭」は、1980年代に「馬鹿ロック」に変更される。ただし、メロディーはまったく同じ。歌詞の「馬鹿踊り」の部分が「馬鹿ロック」に差し替えられ、アレンジが若干ビートのきいた(といってもメロとリズムが音頭だから……)ものになっただけ。

 ……といったあたりが私が把握している馬鹿祭り事情のおおよそだ。
 ついでに申せば、オリジナルの「馬鹿踊り音頭」にあった「奈良の大仏〜 なぁらのだいぶつ 馬鹿おどりぃ〜」「高速道路で、こおそくどおおろで馬鹿おどりぃ〜」などの大馬鹿な歌詞は、改訂版「馬鹿ロック」において、「朝もはよから、朝もはよから馬鹿ロック」といった調子の著しくインパクトを欠いた表現に差し替えられている。つまり、夜郎自大化した馬鹿祭りは、ある時期から反省して謙虚に構えはじめたわけだ。

 馬鹿な展開だと思う。
 馬鹿において肝要なのは、馬鹿道を貫徹する馬鹿強さだ。
 及び腰の馬鹿ほど見苦しいものはない。
 先人の大馬鹿を恥じて馬鹿度を薄めた商店街の2代目連中は薄ら馬鹿だと思う。

 と、1999年の5月に、私は馬鹿濃度の薄弱化を嘆くテキストを書き残している。たしかに、薄ら馬鹿は大馬鹿に劣る。その意味で、今回の中止は、情けない。
 自粛ムードをはねのけてこそ馬鹿の強みが発揮できる。というよりも、あえて「馬鹿」を名乗る以上、世評なんぞに屈してはいけない。馬鹿たる者が空気を読んでいるようでは、世間の萎縮にも、いよいよ歯止めがかからない。先が思いやられる。

 ……という以上の発言は、しかしながら、言わば、行きがかり上の主張であって、私の本意ではない。

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著者プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

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